北海道(函館市、松前町)の食文化
調査班:小林生成、富田志歩 調査日:2019年3月11日-13日
1. 風土・歴史 次へ 目次
蝦夷地(今の北海道)は江戸時代になってから開拓され、本州の人たちが移り住んできました。その後江戸時代後半になると北前船によって本州との貿易がなされていました。北前船は松前や青森、能登、大阪、瀬戸内海、江戸など日本各地を一年ほどかけて回っていた船です。本州から米や砂糖や生活品を輸入し、松前からにしんや昆布を輸出していました。
また江戸幕府による国替えによっても本州との文化交流が生まれました。国替えとは転封とも呼ばれ、幕府が諸大名に違う藩を治めるよう命じることです。大名の不正をなくしたり、各大名の財政の余裕をなくすといった目的があり、頻繁に行われました。例えば松前藩では、9代藩主松前章広が梁川藩(今の福島県)に国替えを命じられました。反対に他の地域からきた大名によって、松前に異文化が持ち込まれ、松前の食文化は発展していきました。
2.調査した郷土食
2.1. イカの塩辛 前へ 次へ 目次
イカの塩辛は、函館の名産品として有名です。函館ではイカがよく取れたので塩辛が函館で親しまれるようになったと言われています。また、イカの塩辛はご飯にのせて食べたり、ジャガイモの上にのせてじゃがバターのバターの代わりに塩辛をのせて食べる食べ方が有名ですが、チャーハンの具材にしてみたり青森の郷土料理の貝焼き味噌の味噌の代用として用いたり調味料として鍋料理に使って食べることもオススメです。
さて、この塩辛ですがいつからあるのでしょうか。実は塩辛は、平安時代以前から存在が確認されており、鯛や鮭や鮎や鮑などの魚介類の塩辛が作られていた記録があります。北海道では塩辛は江戸時代後半から食べられるようになったそうです。その背景には北前船の行き来や松前藩の国替えによって北陸地方や東北地方で食べてられていた塩辛が伝わったのではないかと思われます。
今回は塩辛の製法について布目さんにお伺いしました。布目さんでは、以下の手順で塩辛を作っていました。
冷凍(原料となるイカを冷凍します)
↓
解凍
↓
洗浄(電解質の溶液で殺菌します)
↓
塩漬け、水切り
↓
裁断
↓
味付け、調合
↓
熟成(3〜4日間熟成させます)
今回調査を行った函館ではこのような手順で作られていますが、他の地域である東北では裁断したイカに塩をして塩辛を作ります。布目さんが上記のような手順を踏む理由は、切ってから塩漬けすると洗うときに泡が出やすく水切りしにくく、また泡によってタンパク質が逃げて味が落ちるからです。また熟成の際には1日に数回かき混ぜます。頻繁にかき混ぜると発酵しすぎて、長持ちしなくなってしまうことが理由にあります。
(小林生成)
<調査協力>
株式会社 布目
北海道函館市浅野町4番17号
https://nunome.hakodate.jp/default.htm
2.2. 松前漬け 前へ 次へ 目次
全国的に有名な松前漬けは、蝦夷地の頃から松前で作られている漬物です。発祥は北前船によって醤油が松前に入った江戸時代の頃です。江戸時代の頃は”蝦夷”が一つのブランドであり、蝦夷からきた漬物として松前漬けが定着しました。
この地域ではイカが10月初めから12月末にかけてとれます。その時期にイカが海遊してこの地域にくるので、このイカを干したするめを使って、おいしい松前漬けができるのだそうです。するめと昆布を醤油で漬けたものを松前漬けといいます。松前では本来の松前漬の作り方を守っていて、数の子や野菜は入れず、するめと昆布のみを漬けています。
松前漬けは、するめと昆布に醤油やお酒、一味、砂糖を加え、木の蔵にいれ、10度程度で半月ほど発酵させてできます。それによりアミノ酸が発酵し、旨味が出ます。するめや昆布に醤油などを加えて一日や二日おいただけでは、この発酵が進まないので、半月ほど漬けてアミノ酸を発酵させ、味に深みを出すことが重要です。
松前漬けはお酒のおつまみでもおいしいですが、おにぎりの具にしてもおいしいそうです。家に松前漬けがあってお弁当何にしようかなというときは、ぜひお試しください。
<調査協力>
蝦夷松前 龍野屋
北海道松前郡松前町字福山74
http://www.tatunoya.com/surume.html
2.3. くじら汁 前へ 次へ 目次
くじら汁は北海道の松前町でお正月に食べられる郷土料理です。聞いたことがないという方も多いのではないでしょうか。くじら汁はその名のとおり、大根、にんじん、ごぼうなどの野菜に加えて、くじらが入った汁です。松前のくじら汁には”にお”(下図)という山菜が入っているのが大きな特徴です。
くじら汁は松前藩のあった頃から食べられていましたが、その頃は自然に海岸に寄り付いた寄りくじらを藩に献上してから、各家庭に配分したそうです。それを塩漬けにして保存し、冬に食べていました。寄りくじらが海岸に現れるとにしんが岸に寄るために、大漁への願いを込めてお正月の郷土料理として、定着しました。
ちなみに松前町のお正月は”年とり”とよばれ12月31日です。おせちと一緒にくじら汁を食べるそうです。各家庭によって入れる具材や味付けは多少異なりますが、今回はその一例を紹介します。松前観光協会から紹介いただいた濱村明美様に作り方を教えていただきました。
まず皮付きの塩くじらや人参、こんにゃくなどを短冊切りにし、ごぼうをささがきにし、”にお”はさいて食べやすい大きさに切ります。くじらを熱湯で湯通しし、昆布だしをベースにして野菜やにおを醤油味で煮込みます。
今の時代くじらがなかなか取れずお正月以外は食べないのですが、今回の取材のために特別に作ってくださいました。比較のためにけんちん汁も作ってくださったのですが、けんちん汁のあっさりとした野菜の味わいとは対照的に、くじら汁は濃厚なこくがあり、くじらの旨味が”にお”の食感と相まってとてもおいしかったです。くじらの値段が高くなってきて、若い人の中には食べない人もいるとのことですが、松前町の郷土料理として後世に伝わっていってほしいなと思います。
(富田志歩)
<調査協力>
松前観光協会
北海道松前郡松前町字西館68
http://www.asobube.com/
2.4. その他の郷土料理 前へ 次へ 目次
2.4.1 イカ飯
イカ飯が函館の色々なところで売られていました。宿泊したホテルの朝ごはんや市場や駅弁などで食べることができました。どこのイカ飯も、暖かくても冷えていても美味しかったです。
2.4.2 藩主料理
2日目に宿泊した旅館では藩主料理を少しアレンジしたものを出していただきました。松前14代藩主の婚礼(文久2年1862)の祝膳を、文献を元に再現したお膳です。藩主料理では、鮑飯や寄せ豆腐などをいただきました。鮑飯は鮑が柔らかくとても美味しく生で食べるのとは別の美味しさがありました。しかし、文献では鮑ご飯はスルメと昆布の炊き込みご飯だそうです。
↑鮑ご飯
↑ニシンそば
↑くじら汁
他にもお刺身やイカのツミレの鍋や鱈を蒸したものや寄せ豆腐やウニの茶碗蒸しをいただきました。どれも美味しく、松前ならではのものをいただけました。実際の藩主飯は鮑飯、煮物、鯨汁、寄せ豆腐、けいらん、にしんと数の子、松前漬け、いくらの醤油漬け、果物やにごり酒といったメニューになっているそうです。
2.4.3 海苔段々
3日目にくじら汁を取材した際に一緒にいただきました。いわゆるのり弁ですが、松前の方では海苔段々と呼ぶそうです。松前で取れる海苔は風味豊かでとてもおいしいのですが、近年は温暖化のせいかあまり取れず、一枚1000円ほどすることもあるそうです。そんな貴重な海苔を使った段々海苔をいただきました。本当においしかったです。
2.4.4 姫にしん飯
北海道はにしんの産地として有名です。鯨とにしんの関係は上にも述べたよう深い関係があります。函館にはにしんがのった蕎麦や煮物などがありました。実際に藩主料理として出てきた蕎麦の中にニシンが入っていました。この駅弁でもにしんがいっぱいのったお弁当で蒲焼き風の味をしておりとても美味しかったです。食べた感触は少しふわふわしておりさっぱりとした白身魚と似た味でした。
(小林生成、富田志歩)
3. 最後に 前へ 目次
塩辛の取材に伺った布目様には予め資料やビデオを用意して頂き、大変分かりやすく他の地域との製造方法の違いなどについて教えてくださいました。松前漬けの取材に伺った龍野屋様には地のものを使った本来の松前漬けから便利さによって失われてしまうものがあるということまで丁寧に教えてくださいました。くじら汁の取材に伺った松前観光協会様には資料のご提供から松前の要所の案内までしてくださいました。またくじら汁作りに協力してくださった濱村様方々にはお仕事のある中くじらやにおなどの材料から用意してくださいました。取材を通し、塩辛、松前漬け、くじら汁について深く学ぶことができ、協力してくださった方々に心から感謝申し上げます。
参考資料
1. 福田 裕、山沢 正勝、岡崎 恵美子 「全国水産加工品総覧」
2. 松前町史に親しむ会 「松前かわら版」
3. たびらい : 北海道の気温と気候
(http://www.tabirai.net/sightseeing/hokkaido/info/about/weather.aspx)
4. Weather Spark
(https://ja.weatherspark.com)
5. 函館地方気象台ホームページ:お麩 入門編
(http://www.jma-net.go.jp/hakodate-c/)