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鳥取県の食文化

鳥取県(鳥取藩)の食文化

調査班:鈴木ミユキ、リム リ シン サラ リリアン  調査日:2018年9月13日-14日

目次

1. 風土・歴史

2. 調査した郷土食

2.1. 鳥取砂丘らっきょう
2.2. とうふちくわ
2.3. 智頭名物 柿の葉ずし

3. 最後に

1. 風土・歴史                       次へ 目次

 鳥取県は日本列島本島の西端に位置する中国地方の北東部に位置し、東西約120km、南北約20~50kmと、東西にやや細長い土地です。そのため、食文化及び県民性も東西で違うといわれています。今回取材をした3か所はいずれも東側の土地である。鳥取藩は、因幡国・伯耆国(現在の鳥取県)の2国を領有した大藩です。石高は32万5千石。経済特徴は、農産物が多いところです。1929年に満鮮出荷斡旋所を設置し、本格的な農産物の開拓を進めました。明治時代から大正時代にかけて農林水産業に依存したが、大正時代から昭和時代にかけて第二次産業への構造転換が進んでいきました。立地を生かし取り組んだ砂丘らっきょうは、現在日本一の生産量を誇ります。また、倹約の知恵として開発された豆腐ちくわ、智頭の行事食である柿の葉ずしは、いずれも風土に合わせて発展した食文化です。
(鈴木)

 

2.調査した郷土食

2.1. 鳥取砂丘らっきょう          前へ 次へ 目次

 取材に応じてくれたのは、JA鳥取いなば福部支店の加武田恵子さんです。らっきょうは、江戸時代に参勤交代の付け人が持ち帰ったと伝えられています。大正6年、浜本四方蔵氏等によって砂防造林をして、らっきょう栽培が始まったそうです。鳥取砂丘らっきょうの生産で有名な福部村は、起伏のある砂丘地を隔て日本海に面する独立盆地を形成しており、この土地にあった栽培法として、種付けの方法が独特です。(まっすぐに肥やした砂の溝に、種は植えずおくだけ。海風の作用によって、自然に砂がかぶり平坦になります。)

 (種付け)

 日本一のらっきょう生産量を誇るふくべの砂丘らっきょうは、土地の食材として、昔から現在に至るまで各家庭の食文化を支えています。砂丘らっきょうは、しゃりしゃりっとした触感が他の土地のものとは大きく違うそうです。加武田さんや香川さんの語り口から、らっきょうへ熱い想いが伝わってきます。

 らっきょうの漬け方は、主に二通り。「かんたん漬け」と「本漬け」があり、各家庭によって様々な味付けが楽しめます。取材班も2つの家庭の味を試食させていただきました。加武田さんのかんたん漬けは、長めのカットで甘みが控えめ、唐辛子のピリッとした味が地酒によく合いそうです。一方、香川さんのかんたん漬けは、酸味が控えめで甘みがあり、子供にも好まれる味に仕上がっています。

 (左:本漬け、右:加武田さんのかんたん漬け)

 (香川さんのかんたん漬け)

【かんたん漬けと本漬け 作り方の違い】
かんたん漬け→発酵させず、塩づけ、湯通し、調味液にらっきょうを漬ける。
本漬け→塩水に漬け2週間発酵させる。塩抜きをしてから、湯藤氏、調味料にらっきょうを漬ける。

【平安時代からの医治食 らっきょうのパワー】
 らっきょうは、古くは平安時代から、薬用として医治のために用いられたとされる食材とされています。食物繊維、ジアリルスルフィド、フラボノイド、サポニンなどの栄養価が高いとされるらっきょうは、「1日4粒で心臓病、脳卒中を予防、抜群のがん予防効果が期待できる健康食」として、地元で親しまれています。御年65歳を過ぎる香川さんですが、現役のらっきょう生産者。とっても元気です!

 (らっきょう生産者 香川佐江子さん)

 最後にお手頃に作れるらっきょうのレシピをご紹介します。

【焼きらっきょうのレシピ】
*材料*
・根付きらっきょう 20個
・特製たれ
 みりん     50㏄
 砂糖   小さじ 1
 日本酒  小さじ 2
 しょう油    少々
 純米酢     5㏄

1. 特製たれの材料は、鍋で煮立たせておく。
2. 焼き網の上でらっきょうを少し焦げ目がつく程度に焼き上げる。
3. 2の焼きたてを特製たれに10分程漬け込む。

(鈴木)

<調査協力>

JA鳥取いなば福部支店
鳥取市福部町細川603-1
https://www.jainaba.com/

 

 

 

 

2.2. とうふちくわ              前へ 次へ 目次

 ちくわに見えるがちくわではない、かまぼこにも見えるがかまぼこでもない、というのは鳥取県の独特な名物である豆腐ちくわです。豆腐ちくわの長い歴史を遡るには、鳥取県の歴史・地理にも触れる必要があります。より詳しく知るために、我々は1865年に創業したとうふちくわの里・ちむらの布袋店を訪れて、千村大輔様からお話を伺いました。

 (千村 大輔様とのお写真)

(とうふちくわの里・ちむら 布袋店) 

 豆腐ちくわの歴史は、とうふちくわの里・ちむらの歴史とほぼ等しく、江戸時代まで遡ります。当時の鳥取藩はあまり恵まれず、海と接しているのに漁港の開発が遅れて、魚は非常に貴重なものでした。一方、鳥取藩には山村が多く、大豆がよく栽培されていました。その影響で、当時鳥取藩を治めていた池田藩主が魚の代わりに大豆を食べるように命令を下しました。そこで、鳥取藩の東部に豆腐からちくわを作る習慣が生まれ、150年以上受け継がれてきました。

 早速、とうふちくわを試食させていただきました。とうふちくわは魚肉の豪華な味わいもしっかりしていながら、豆腐の柔らかい食感がありました。それこそが時代を超えるアピールポイントだと、実感しました。美味しいだけではなく、とうふちくわは栄養面にも優れています。豆腐がメインの材料なので、普通のちくわよりも高タンパク質で低カロリーで、ダイエット中の女性にも人気があるそうです。

 現在も、豆腐ちくわを食べる習慣は鳥取県民の日常生活に根付いていて、軽食またはお酒のおつまみとしてよく出されています。鳥取市内の行事・祭りにも、お客様のおもてなしで出されます。また、とうふちくわは非常に優しい味をしているので、様々な味付けと相性がよく、頻繁にお料理にも使用されています。東部に住んでいる鳥取県民ですと、週2回か3回に豆腐ちくわを食べると思われます。

 豆腐ちくわは、昔から豆腐と白身魚が7:3の割合で作られてきて、現在でもその割合にしたがって作られています。木綿豆腐に魚肉を入れて、調味料も加えて混ぜて、ちくわの形に練ります。それから加熱して、完成です。

 加熱方法について、ちくわは「焼く」イメージが強いと思いますが、焼き豆腐ちくわと蒸し豆腐ちくわの2種類があります。焼き豆腐ちくわは少し焼き目がついていて香ばしいのに対し、蒸し豆腐ちくわは真っ白で、豆腐の自然な甘みが味わえられます。

 (左:とうふちくわ焼き、右:とうふちくわ蒸し)

 また、訪れていたのは夏の終わり頃でして、とうふちくわの里の夏限定の「レモンとうふちくわ」と「枝豆とうふちくわ」も試食できました。昔ながらのレシピで作られたとうふちくわなのに、季節感や新しい味により新鮮に感じられ、本当に素晴らしいと感動しました。

 
(左:夏限定のレモン味、右:夏限定の枝豆味)

(リム)

<調査協力>

 とうふちくわの里・ちむら 布袋店
 鳥取県鳥取市河原町布袋556
 http://www.toufuchikuwa.com

 

 

 

 

 

2.3. 智頭名物 柿の葉ずし          前へ 次へ 目次

 鳥取の柿の葉ずしは、智頭(ちず)という土地が有名です。取材をさせて頂いた國政さんのお話では、柿の葉ずしは戦前からお盆の行事食として各家庭で作られていたそうです。鳥取のお盆は8月15日。暑い最中、冷蔵庫がまだない時代です。柔らかく崩れた塩魚と酢飯を混ぜて柿の葉の上に乗せ、山椒の葉をのせる。樽にきっちりと積み重ね枝葉を敷き詰め絞る作業をし、重石で密封し発酵させました。内陸にある智頭では魚は貴重な食材で、庭に豊富な柿の葉は防腐作用が強く保存が効きます。食の乏しい時代に、家族や親戚にご馳走をふるまうための主婦の工夫が伺えます。

 戦前の作り方は「こけらずし」という柿の葉ずしの原型になります。
 昭和40年頃から藁屋根の農家が改築される際、柿の木も伐採されました。子供のおやつとして重宝した柿の木も、食材が豊富になった時代には必要とされなくなり、それに伴い「お盆のおもてなし料理」として定番だった柿の葉ずしも次第に各家庭から消えていったそうです。

 (昔の柿の葉ずし=こけらずし)

 地元の食文化の衰退に危機感を覚えた國政さんら農家の主婦たちが、昭和50年ごろから今の「柿の葉ずし」を広め始めました。既に普及し始めた冷凍庫を活用し、通年で作れる柿の葉ずしを考案。試行錯誤を続け、平成13年、県の農林振興局のバックアップの元、ついに現在の「統一レシピ」が完成しました。

 (現在の柿の葉ずし)

 甘柿の葉の上に、ふわりと握った酢飯、薄い塩マスの切り身の上に、みょうが、しその実、サンショウの葉など、四季折々の旬な薬味が飾り付けされています。口の中で、上品な酸味と甘みが薬味のスパイスと絡み合い、硬すぎない酢飯が喉元をスムーズに通過していきます。お米一度に5合の米で作り、しっかりと重石をすることで乳酸発酵が進み、一週間の保存が効きます。寝かした時間によって味の変化が楽しめるそうです。保存方法や味だけでなく、見た目にもこだわった「鳥取のおもてなし料理」は、他にはないオリジナリティがあります。

 國政さんたちのグループは、現在、県内の小学校から大学まで、幅広い教育機関で若い世代に作り方を指導しているそうです。そして、柿の葉ずしは、今では、お盆だけでなく様々な行事食となっている様子。お正月はもちろん、桃の節句や五月の節句、ちょっとしたお祝いの席でも、柿の葉ずしは活躍しています。食文化を残したい、という國政さん達の想いが、若い世代に引き継がれ広がっていくと素敵ですね。

 (中央:國政勝子さん、左右:取材班)

【鳥取県の柿の葉ずし調理方法】
1 すし飯を作り、魚の処理をする。
2 柿の葉に、俵型のすし飯を載せて軽く抑える。
3 魚の切り身1枚を合わせ酢にくぐらせる。
4 すし飯の上にのせ、山椒の実又は葉をのせて、全体を押さえる。
5 桶等にきっちり隙間なく敷き詰めて、さらに柿の葉で覆い、重石(1kgぐらい)をして半日程度味をなじませる。

(鈴木)

<調査協力>

那岐特産品開発研究会陸グループ
國政 勝子 様

 

3. 最後に                          前へ     目次

 今回の食文化調査を通じて、日本の食文化が地元の主婦達に守られてきた大事な文化の一つだと、実感しました。また、鳥取の地元の方々の優しさに触れ、こちらもやさしい気持ちになりました。今回取材に応じてくださった皆様、本当にありがとうございました。感謝致します。
(鈴木)
 
 専門家の3人からお話を伺って、若者向けの伝統料理講座の開催や郷土料理の再生などの形の、昔ながらの伝統文化を保全しようという努力と精神が感じられて、励まされました。個人的に、今までに外国人の立場から、「日本の文化」と一括して扱う傾向がありましたが、今回鳥取県へ参って、鳥取県の食文化がどれほど独自に美しいのか、地元の方がどれほど鳥取県民としての誇りを持っているかを拝見し、実は日本の文化は想像もつかないほど細かい、と痛感しました。視野を広げるお話をお聞かせていただいて、心から感謝しております。
(リム)

 

 参考資料

・鳥取県HP 県の概要
https://www.pref.tottori.lg.jp/1412.htm
・鳥取県HP 鳥取県史ブックレット『武家の女性・村の女性』
https://www.pref.tottori.lg.jp/227837.htm
・鳥取県の近代史『鳥取県ができるまで』
http://www.pref.tottori.lg.jp/secure/928936/rekishisyousassi.pdf
・鳥取県観光案内HP
https://www.tottori-guide.jp/tourism/tour/category/6/見る>町並み・旧街道
・鳥取県の地域経済分析 – 経済産業省
http://www.meti.go.jp/policy/local_economy/bunnseki/47bunseki/31tottori.pdf
・47の県民性 鳥取県出身の特徴
https://xn--w8t18x6yi.jp/tottori
・小冊子「~日本一のらっきょうの里「福部」~らっきょう料理」
 発行元:福部村役場 企画産業課/鳥取いなば農業協同組合福部村支店
・書籍「砂丘に輝く生きた宝石」
 発行元:ふくべ砂丘らっきょう100周年記念事業実行委員会(2014年)
・良好倶楽部サイト 『らっきょう』効能と栄養
https://ryoko-club.com/food/scallion-nutrition.html
・書籍「八頭のあじ」
 発行元:八頭生活改善実行グループ連絡協議会(平成16年)

 

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