「微生物ゲノム×地域」で 食のブランディング

奈良県の食文化

奈良県(天領)の食文化

調査班:岡本、小山  調査日:2017年9月6-7日

目次

1. 風土・歴史

2. 調査した郷土食

2.1. 柿の葉寿司
2.2. ひしお
2.3. 十津川ゆうべし
2.4. 奈良漬
2.5. その他の食品

3. 最後に

1. 風土・歴史                    次へ 目次

 蘇我氏、推古天皇、聖徳太子の時代、奈良に位置した大和朝廷が栄えました。794年に平安京に遷都するまで、奈良には都がおかれ、政治的、社会的中心でした。都がおかれたことで、各地から名産品や進んだ技術が集い、歴史的建造物が造られるなど、日本文化の原点ともいえる地です。また、仏教や古墳文化がいち早く伝来し、進んだ大陸文化を受け入れていったのも奈良県が中心といえます。(小山)

 奈良県は近畿地方のほぼ中央に位置し、海岸に接しない内陸県で、地形、地質上から見ると吉野川に沿って走る中央構造線により、北部低地と南部吉野山地とに大別できます。北部低地帯は全般的に標高500mないし600mの山地が多く、それらが奈良盆地の四方を囲んでいます。奈良盆地及びその周辺部には社寺、古墳、御陵等が多く存在しています。南部吉野山地は、東西70㎞、南北80㎞にわたって広がり、県土面積の3分の2を占めています。ここでは、吉野川・十津川などの渓谷が南北に流れ、1000m級の山岳がそれに並行して山脈を形成しています。谷部はとくに急峻ですが、多くの山頂部は平坦な地形が広がっています。吉野山地の山深くには、歴史上の人物も湯治に訪れたという古湯・秘湯や近年になって発見された温泉が多く存在しています。

(岡本)

2. 調査した郷土食

2.1. 柿の葉寿司           前へ  次へ 目次

柿の葉寿司とは

 柿の葉寿司は新鮮な魚が届かず、海産物が貴重であった山里、奈良県の五條や吉野地方で生まれた行事食です。200年ほど前の江戸時代、貴重なタンパク質源であった熊野灘でとれた鯖を塩でしめて、川上船で紀ノ川をさかのぼり、吉野川筋の村々に運ばれたことにはじまるといわれます。塩でしめられた鯖は切り身にして酢を加えた握り飯にのせられ、奈良県でよくとれる柿の葉で包んで食べられました。五條から西吉野にかけては全国でも有数の柿の産地でした。五條周辺では7月24日の夏祭りが近づくと各家庭で作られて食べられていました。流通が発達した現在では日本各地でいつでも食べられる食品となっています。発祥当時は何日も箱に詰めたまま置いておき、乳酸発酵をさせたなれずしとして長期にわたり食べられていましたが、塩分を控えて、押しずし・箱寿司となった現在の柿の葉寿司の賞味期限は3日程度だそうです。

柿の葉寿司の作り方と食べ方

 柿の葉寿司の材料は、しめ鯖、米、砂糖、酢、渋柿の葉。しめ鯖を刺身のように薄く切り、お米に酢に砂糖を溶かしたものをいれて混ぜます。柿の葉の中央にしめ鯖を乗せ、一口大のご飯を乗せます。柿の葉でしめ鯖と酢飯を覆ったら木箱に入れてプレスします。プレスという過程は、形を整え空気を抜くことのほかに、木箱の香りを移す、という意味もあるのだそうです。

 実際の工場もみせていただきました。職人さんが一つ一つ手作りしていた時代とは異なり、工場で大量生産が行われています。しかし、機械に多くの仕事をゆだねる今も香りを残せるよう機械製造になっても木箱を使う、包む部分では人が行うなどかつてからのこだわりをまもりつつ、現代の人にも食べてもらえるよう味付けを薄くしたり、一口サイズにするなどの工夫しているとのことです。

 

 

 

 

 

 

 江戸前寿司に慣れた関東の人は新鮮な柿の葉寿司が食べたい、と注文をするのだそうですが、本当においしいのは1日置いてから。取材に伺った際、取材班も2日経った柿の葉寿司と出来立てのもの両方ご用意いただいて食べ比べさせていただきました。出来立てのものはしめ鯖の主張が強く、確かにしめ鯖を酢飯にのせた味、という感じでした。一方、2日経ったものはごはんからは柿の葉のよい香り。しめ鯖とごはんがまろやかになじんで舌触りの良い味になっていました。

(小山)

 

 

 

 

 

<調査協力>

株式会社柿の葉寿司本舗 たなか
奈良県五條市住川町1490番地
https://www.kakinohasushi.co.jp/

 

 

 

 

2.2. ひしお             前へ  次へ 目次

ひしおとは

 ひしおは今から3000年以上前の周の時代に開発され、奈良時代に日本に伝わった発酵食品です。肉や魚、野菜、穀物などを塩漬けにし、発酵させた食品の総称をひしお、と呼んでいました。平安時代には貴族の宴会で塩、酢、酒とならんでひしおが置かれ、四種器(よぐさもの)と呼ばれる貴重な調味料の一つでした。奈良時代から大豆は加熱処理をして、穀物に麹菌を繁殖させた麹と塩と水を加えて発酵させたもの、と考えられているそうです。大豆をタンパク源にするひしおは仏教の精進を守るための菜食の味付けとしても重宝されていたようです。

 ひしおは醤油、味噌の起源ともいわれています。日本の料理法の変化と道具の発達と共に、従来の付けて食べるひしおから料理に使う液体の調味料へと工夫されていきました。

ひしお再興へ

 ひしおは長年の間ひしおとしての姿を消していましたが、『なら食』研究会の横井さんの発案で、奈良の醤油組合に加盟する全醤油店が協力し、ひしおの再興が行われました。中国最古の農業書である「斉民要術」を横井さんが解釈し、現在の「古代ひしお」の製法ができました。アルコール添加や火入れをしている味噌や醤油は酵母菌などの微生物の働きを失活させるのに対して、微生物を生かしたままの古代ひしおは熟成が進み、保管の中で香りや色が変化していくのが特徴といえます。固体の味噌、液体の醤油に対して、ひしおはとろみのある半流動体。料理への使い方は基本的に醤油と同じですが、クリームチーズにひしおをのせ、はちみつをかけるのは、ひしお独特のおいしさを味わうことのできる現代風の食べ方だそうです。「古代ひしお」を味わいながら、奈良時代の貴族の様子に思いをはせたり、同じものを食べておいしいと思う変わらぬ日本人の味覚に感慨にふけってみるのはいかがでしょうか。

(小山)

 

<調査協力>
『なら食』研究会
http://narasyok.com/

 

2.3. 十津川ゆうべし         前へ  次へ 目次

 十津川ゆうべしは十津川村発祥の保存食のことです。柚子の中身をくり抜いて、味噌や米粉、そば粉、しいたけ粉など家庭ごとに伝承されているレシピに基づいてさまざまなものを入れ、蒸してから、冬の間つるして乾燥させることによって作られます。京都御所の護衛をしていた十津川郷士が食していたとの言い伝えがあるように、昔から村人によって作り続けられている食品です。見た目は褐色の球体で、十津川村の道の駅では下の写真のように陳列されて販売していました。よく見てみると外側は柚子の様子が少し残っています。

 調査では、村役場の方のご協力により、実際に生産されていた方のお話を伺うことができました。下の写真はその際に見せていただいた過去の製造の様子です。乾燥させたあとのゆうべしを藁でくるみ、出荷していたそうです。

 

 食べ方は薄く切って、ごはんのおかずやお酒のおつまみなどにすることが一般的です。切ってお湯をかけて味噌汁としたり、細かく刻んでごはんと混ぜたりして、保存食なので少しずつ食べていくとのことでした。若い人はクリームチーズと合わせて食べることもあるそうです。私は十津川村の道の駅の喫茶店でお茶請けとして、ゆうべしを食べました。味噌と柚子の風味が感じられて、とてもおいしかったです。

 十津川村は、紀伊半島のほぼ中央に位置し、面積は琵琶湖とほぼ同じ大きさで、村としては日本一の大きさです。昔はほかの地方との交流があまりできなかったことや、山間部で農耕に適していなかったこと、冬は雪が降ることもあるが乾燥していることなどのこと地域の特徴から生まれた、知恵と工夫の詰まった保存食が十津川ゆうべしだと分かりました。

(岡本)

 

 

 

 

 

 

 

<調査協力>

十津川村農林課
奈良県吉野郡十津川村大字小原225-1
http://www.vill.totsukawa.lg.jp/www/index.html

中谷順行様・中谷淳子様

 

 

 

2.4. 奈良漬               前へ  次へ 目次

 その起源は約1300年前にさかのぼり、当時は貴族が食べる高級品だったそうです。室町時代、南都(奈良)で作られる酒が特に美味しく、その粕を使って作られた粕漬けも味が良かったため、奈良漬と言われるようになりました。江戸時代には、白うりの他にも、なす、すいか、きゅうりなどの野菜も漬け込むようになり、幕府への献上物や東大寺に参拝する人々に土産物として売り出され、奈良を訪れる旅人によって一般に普及していきました。

奈良漬の特徴は計6回、期間では1年半から3年ほども漬け込むことにあります。下の写真がその工程です。このように酒粕を多く利用しているので、味が濃いのはもちろんのこと色・香り・味・歯触りもよい漬物となります。

 

 

 

 

 

 

 漬物は保存食の一種です。奈良県では夏野菜が採れやすく、一斉に白瓜やなす、すいか、きゅうりなどの野菜が手に入ったため、食べきれない分を保存食にするところから始まったと考えられます。また、ウリ科は食感や水っぽいところ、味がないところが漬物に適しています。例えばニンジンのように水分があまりない野菜では浸透圧を利用して塩蔵をすることが難しいそうです。

 奈良漬は鰻の蒲焼きとの組み合わせが定番とされています。これは、奈良漬に含まれる成分にビタミンの吸収を助け、油っぽさを和らげる効果があるからです。このように、奈良漬はごはんのおともとして親しまれています。近年ではそれだけではなく奈良漬を使ったお菓子などの開発も進められています。奈良漬は奈良の気候や水などの環境を活かして大昔に誕生した保存食であり、たくさんの人の熱意や努力によって伝え続けられている伝統食品だと分かりました。

(岡本)

 

 

 

 

 

 

 

<調査協力>

株式会社山崎屋
奈良県奈良市東向南町5(本店)
http://www.yamazakiya.jp/

 

 

 

 

2.5. その他の食品           前へ 次へ 目次

調査品目のほかにも以下のような伝統食に出会うことができました。

三輪そうめん

 

めはりずし

 

茶粥

 

3. 最後に                        前へ 目次

 私は科学と生活の関係に興味を持っているため、大学での専攻に高分子工学を選びました。ここでは、化学をどのように人々の生活に役立てるかを考え、環境・資源・医療・新素材など様々な面から日本のものづくりについて学んでいます。また、都市工学や社会学、公衆衛生学に関してさらに学ぶことで、生活空間の安心安全化と快適化に化学の観点から貢献できないかと考えています。日本の食文化を科学的に解釈しようとしているところを魅力に感じて、この研究講座に参加しました。
 今回の食文化調査で訪れた奈良県は、1300年もの歴史を大切につないでいて、地域それぞれの魅力がある場所です。調査した食品はどれも、環境を活かして人類の知恵を加えることで生まれた保存食です。実際に生産されている方々からお話を伺うことで、工夫や熱意を知ることができました。その姿勢は今後の自身の研究と重なる部分を感じるところがあり、大変興味深いものでした。現地調査を通して、奈良の自然の豊かさと人々の温かさがとても印象に残りました。
 日本の各地域には気候や風土、歴史をもとに発展した食文化があります。そのような文化に少しですが触れることができて、食の奥深さを感じました。昔の人の技術と知恵から誕生して今まで受け継がれてきた文化が、人々の生活を支えていることが分かりました。この食文化調査では自治体や企業の方々に大変お世話になりました。貴重な資料や経験を教えていただき、とても理解が深まりました。私たちのためにお時間をさいてくださり、誠にありがとうございました。この場をお借りしてお礼を申し上げます。
(岡本奈美)
 
 食に関係する職業につきたいと言い続けて長い私が食文化調査派遣員募集のポスターを図書館で見つけたのは6か月前。栄養や成分、それらが体に及ぼす反応について研究してみたいと思っていましたが、思いがけず与えていただいた機会はもっとマクロな世界の食研究でした。
 栄養食品や、機能性食品が多く出回る時代、「食」に費やされる時間は短くなり、誰かと食べることも少なくなりつつあります。しかし、今回の調査で「食」は生きるために不可欠なツールであると同時に文化なのだということを改めて感じました。中国から伝わった文化が長い時間を経て醤油になり、味噌になった。そして、今また当時の姿が復元されています。ただ生きるために栄養をとるだけだったらこんな伝統は存在しないでしょう。柿の葉寿司は夏祭りの楽しみの一つでした。ゆうべしはお酒の席でよいさかなでした。奈良漬は全国の食卓に並べられています。このように今回取材させていただいた4つの食品も、すべて人々の集うところにありました。ミクロな世界を突き詰めていくことも大事だけれど、その背景にはマクロな、人と人とのつながりや、歴史や風土との関連があるのだということを忘れてはいけないと感じました。当たり前のようで、当たり前ではなかったことに気づくことのできた充実した調査になりました。ありがとうございました。
 今回調査の機会をくださった研究室、ぐるなびの方々、そして調査にご協力くださった皆様に心より感謝申し上げます。
(小山夏花)

 

参考資料

・柿の葉寿司本舗たなか
 (https://www.kakinohasushi.co.jp/kakinohasushi/
・コトバンク「ひしお」
 (https://kotobank.jp/word/%E9%86%A4-119620
・キッコーマンHP「「醤」(ひしお)の時代」
 (http://www.kikkoman.co.jp/soyworld/museum/history/hishio.html
・山印醸造株式会社HP「お味噌のお話:醤とは」
 (http://www.yamajirushi.co.jp/misohanashi/hana2re5.htm
・なら食研究会HP
 (http://narasyok.com
・片上醤油HP
 (http://www.asm.ne.jp/~soy/
・山﨑屋HP
 (http://www.yamazakiya.jp/
・奈良県公式HP「奈良の奈良漬」
 (http://www.pref.nara.jp/20451.htm
・キリン食生活文化研究所 発酵食品名鑑「奈良漬け」
 (http://www.kirin.co.jp/csv/food-life/know/activity/ferment/tsukemono/tsukemono_14.html
・Time-j.net 世界時計「奈良県の風屋の気候:十津川村」
 (http://weather.time-j.net/Stations/JP/kazeya
・Climate-Data.org:世界各都市の気候データ「十津川村の気候」
 (https://ja.climate-data.org/location/656543/
・十津川村観光協会「谷瀬の吊り橋」
 (http://totsukawa.info/joho/kanko/
・十津川村ポータルサイト
 (https://www.vill.totsukawa.lg.jp/
・日本で最も美しい村連合「十津川村」
 (http://utsukushii-mura.jp/totsukawa/
・日本の食生活全集29「聞き書奈良の食事」
・奈良県公式HP 自然
 (http://www.pref.nara.jp/1355.htm

 

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