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宮城県の食文化

宮城県(仙台藩)の食文化

調査班:客 博偉、木野 裕太、近藤 恭平  調査日:2019年2月27日-28日

目次

1. 風土・歴史

2. 調査した郷土食

2.1. 仙台味噌
2.2. 油麩
2.3. 仙台長茄子漬け
2.3. その他の郷土料理

3. 最後に

1. 風土・歴史                       次へ 目次

 宮城県には奥羽山脈の山々を源泉として、北上川、鳴瀬川、名取川、阿武隈川などの川が流れ、それらによって肥沃な沖積平野が形成され、豊かな穀倉地帯となっています。また、宮城県沖は親潮と黒潮がぶつかり合う潮目となっているため、栄養が多く集まり、世界有数の漁場となっています1。気候としても東北地方としては比較的温暖で(年平均気温 12.1℃)、降雪が少ないです。
 こういった自然条件にも支えられ、農林水産業が昔から大きく発達しています。これは、江戸時代当初に原野だった仙台藩で、伊達政宗が新田開発を進めたことによる功績が大きいです。米が生産出来るようになった仙台藩は、当時急激な人口増加で米不足を起こしていた江戸に奥州街道を通して米を供給することで全国的に有数の大藩としての地位を築きました2
 今でも宮城県は全国有数の米どころであり、平成29年度の米の作付面積は全国で5位、大豆の作付面積は全国で2位です。
(木野)

 

2.調査した郷土食

2.1. 仙台味噌               前へ 次へ 目次

 400年以上の歴史を持つ「仙台味噌」は、関西の白味噌に対して、赤味噌の代表格として、戦国時代から全国的にその名を知られていました。

 昔は太平洋側の海は波が荒く、航行が困難を極めたため、北海道で取れた昆布が仙台に運ばれることはありませんでした3。そのため、仙台には昆布だし文化が無く、代わりに豊富で新鮮な海の幸、山の幸の味を生かす調味料として仙台味噌が発展していきました。つまり素材から出るうまみ成分と長期熟成により作り出される仙台味噌のうまみ成分が合わさり相乗効果をもたらしたといえます。

 今回訪れたのは、1845年(弘化2年)の創業以来、仙台味噌をつくり続けている太田與八郎商店さんです。仙台味噌は米麹、大豆、塩によって作られており、他の味噌と原料はあまり変わりませんが、調理工程における大豆を蒸すという工程が大きな特徴として挙げられます。

 仙台味噌を作る際には、まず始めに、原料である大豆を、圧力鍋でじっくりと蒸します。これによって大豆の旨味を閉じ込め、大豆本来の旨味を最大限に利用します。他の味噌と違って豆を茹でるのではなく豆を蒸すため、栄養分も流れ出ません。この過程で、糖分が流れ出ないことで、後の発酵過程でメイラード反応が起こりやすく、仙台味噌特有の赤茶色が生まれます4

(写真提供:太田與八郎商店 ※転載禁止※

 味噌の主な原料である大豆には、良質な植物性たんぱく質が多く含まれています。また味噌の発酵・成熟した過程で約30%が分解されてアミノ酸となっており、生命の維持に欠かせない必須アミノ酸8種、そしてビタミンなども含まれています。これらを活かしている仙台味噌は、栄養価豊富で非常に優れた食品だと言えます。
 こういった仙台味噌は、江戸にも流通しており評判になっていました。しかしながら、1923年の関東大震災後、支援物資として信州から白味を帯びた味噌が江戸に流通してきた流れの中で、色味を抑えた味噌が多く出回るようになり、いつしか全国的な主流となってしまいました。赤みを帯びていることで敬遠されてしまうこともある仙台味噌は岐路に立たされつつあります。


(製造工場で、保存された熟成中の味噌を見せて頂きました。)

 今回訪れた太田與八郎商店さんは、伝承されている技術を持ち、知り合いの農家の大豆を使用するなど、伝統や地元のつながりを大事にしていました。また、それだけではなく、ご家庭向けの味噌作りの体験教室を開いたり、味噌ジェラートなどの新しい商品も開発しており、次の世代にもつなげていこうという気持ちを強く感じました。

(客)

<調査協力>

 太田與八郎商店
 宮城県塩竈市宮町2-42
 https://oota-yohachiro.com/

 

 

 

 

2.2. 油麩                  前へ 次へ 目次

 お麩は室町時代頃に中国から日本に伝えられたと言われています。それが次第に日本各地に広まっていき、様々な方法で調理され、食べられるようになりました5

 今回訪れた宮城県の北部、登米(とめ)市の、特に登米(とよま)町地区で生まれたお麩の1つの形が油麩です。

油麩は小麦とグルテンと水を混ぜて練ったものを植物油を使って、一つ一つ長細くふっくらと揚げた棒状のお麩です。
訪れた日は工場はお休みでしたが、実際に使っている機械の前で製造方法について教えていただきました。

 もともと登米の地域でお盆の時期に精進料理を食べる文化があり、その際に肉の代用としてお麩をよく食べていましたが、更にコクを出すために明治初期に登米地方で開発されたのが、油麸だと言われています。

 油麩は東北地方の郷土料理であるはっとなどの汁物や煮物に入れて食べることが多いです。油麩は汁をよく吸うので味が染み込み、同時に油麩から油が出ることで料理自体のコクも増します。

 もともと夏のお盆の時期にのみ食べられていましたが、今では年中食べられるようになりました。しかし、今でも夏場には消費量がかなり増えるため、夏場は生産量を増やす必要があります。そのため今回訪れた熊本油麩店さんでは、夏場はほぼ毎日、高温の油に囲まれた中で作業を行っており、それは今でも大変な作業だとおっしゃっていました。

 そういった苦労もある中で、登米地方では伝統食品である油麩をもっと広めるために、油麩をお肉の代わりとして使用した油麩丼を強く推しており、好評を得ています。

(木野)

<調査協力>

 元祖・熊本油麸店
 宮城県登米郡登米町寺池三日町47
 http://www12.plala.or.jp/aburahu/

 

 

 

 

2.3. 仙台長茄子漬け             前へ 次へ 目次

 茄子は一般的にどんな地域で栽培されているか、ご存知ですか。もともと茄子は、高温多湿の地で栽培されていた野菜です。そこから気候や風土に合わせて変化してきました。

 今回調査したのは、寒い地域で栽培された茄子の漬物として知られる、仙台長茄子漬けです。東北地方に茄子の種がどのように渡ったかというと、戦国時代(1593年)に、伊達政宗が朝鮮の役で出陣した際に、博多から持って帰ったのが始まりだそうです。当時、茄子はとても高価で、庶民は勿論、身分の高い者さえなかなか食べることができない食材でした。

 では、そんな南国から持ち帰った茄子は、寒い仙台の地でどのように栽培され、漬物としてその地で親しまれていったのでしょうか。

 高温多湿で育つ茄子は、長く大きいのですが、寒い地域で栽培された仙台長茄子は、栽培期間が他の地域と比べて非常に短く、8~13cm程度で収穫します。そうすることで、皮が柔らかく、肉がしまったものになるそうで、漬物にぴったりの品種になっていきました。

 漬物の作り方は、とてもシンプルです。塩とミョウバンを混ぜたものに、茄子を入れて、塩漬けにします。その後、塩抜きをして味を整え完成です。(なぜミョウバンを入れるかは、後で触れます。)

 ところで、茄子ってそもそも何なのでしょうか。

 茄子の約99%は、水分です。それは、焼きなすなどを食べたことがある方は、すぐにわかると思いますが、火を入れる前と後で大きさが全然異なりますよね。それは、水分が多く含まれている茄子だからこそです。
 では、残りの約1%はというと、大部分がポリフェノールです。茄子から抽出したポリフェノールは、ナスニンと呼ばれています。そして、これは皮の部分にのみ含まれています。茄子の皮が紫色なのは、このナスニンがいるからだったのですね。そして、このナスニンには、がんの予防や眼精疲労の回復に効果的なんだそうです。

 そのため、漬物にするときにも、このナスニンを残すようにしないといけません。しかし、塩漬けにする際に、そのまま茄子を入れると、色が落ちてしまいナスニンがほとんど残っていない状態になってしまうそうです。そのため、塩漬けするときに、ミョウバンを入れておくことで、茄子の色落ちを防ぐ工夫がなされています。

 今回訪れた豊屋食品工業さんでは、仙台長茄子漬けに関しては、一夜漬けのような形で製造しているそうです。そのため、漬物というよりサラダ感覚で食べて欲しいとおっしゃっておりました。飲食店などで身近になっている漬物ですが、今後も食文化として親しまれ続けることを願います。

 仙台長茄子の古漬けの写真です。とても鮮やかな紫色をしています。(写真提供:豊屋食品工業株式会社)

 今回、取材に訪れた際には、長茄子漬けを漬けている様子は見ることができませんでしたが、他の商品を漬けている様子を見せていただきました。


豊屋食品工業様は、他の漬物も作っており、上の写真は、大根を漬けた様子です。


こちらの写真は、工場内の様子です。震災の影響で、機械が壊れてしまい、手作業でやっているそうです。

(近藤)

<調査協力>

 豊屋食品工業株式会社
 宮城県柴田郡柴田町大字下名生字八剣20
 http://www.yutaka-ya.com

 

 

 

 

2.4. その他の郷土料理            前へ 次へ 目次

 

 一日目の昼に、太田與八郎商店さんのご厚意で、太田與八郎商店さんの醤油を使ってラーメンを作っているお店に連れて行ってもらいました。脂っこくなく、とてもあっさりしたラーメンで食べやすかったです。本当にありがとうございます。

 

 2日目のお昼に、油麩と茄子の旨煮を頂きました。油麩が出汁をよく吸っており、さっぱりとしつつもコクがあり、美味しくいただくことが出来ました。

(近藤・木野)

 

 

3. 最後に                          前へ     目次

 宮城県での2日間の取材では、仙台味噌、油麩、仙台長茄子漬けの様々な事情を知り、歴史的な起源も、制作工程もたくさん勉強になりました。訪問を受け入れていただいた方の熱意ある受け答えとお土産に感謝します。
(客)
 
 これまでに培ってきた伝統を維持し続けるだけではなく、変化していかなければいけないこの時代に、これからの在り方を模索されているのだと感じました。調査に協力していただいた皆様にこの場を借りてお礼申し上げます。
(木野)
 
 この2日間で、様々な工場を見させていただき、皆さんの熱意が伝わってきました。無理を言って取材を受けてくださり、工場も見学させていただきありがとうございます。
(近藤)

 

 参考資料

 1. 宮城県庁ホームページ: 1 宮城県の自然と農林水産業
  (https://www.pref.miyagi.jp/uploaded/attachment/106515.pdf
 2. 食材王国みやぎ:みやぎ伊達家と食文化
  (https://www.foodkingdom-miyagi.jp/date/03.html
 3. 日本水産保護協会 : こんぶについて
  (http://www.fish-jfrca.jp/02/pdf/pamphlet/069.pdf
 4. 佐々重:仙台味噌の特徴
  (http://www.sasaju.co.jp/p2/tokuchou.html
 5. 文四郎の麩:お麩 入門編
  (http://bunshiro-fu.com/?mode=f20
 6. つけもの大学 漬物の色を探ろう
  (http://www.kohseis.co.jp/club/knowledge/kn_7.html

 

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