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鹿児島県の食文化

鹿児島県(大隅藩・薩摩藩)の食文化

調査班:岡本奈美・河野真子・千葉のどか  調査日:2018年3月12-13日

目次

1. 風土・歴史

2. 調査した郷土食

2.1. 黒酢
2.2. さつま揚げ
2.3. 山川漬
2.4. その他

3. 最後に

1. 風土・歴史                       次へ 目次

鹿児島県は、温暖で寒暖差が小さく、夏は台風に見舞われることが多い気候です。県の大部分は海で囲まれており、県中央部には火山があります。昔からしばしば噴火が起こったため、シラス台地です。農業や畜産は、さつまいもなど複数種の野菜や養豚が有名です。また、その地理的位置から古くから交易の重要な拠点となっていました。オランダをはじめとするヨーロッパのいくつかの国々や、中国・朝鮮などのアジアの国々、そして琉球と交易がもたれ、鹿児島に国外の文化が流入しました。中世から近世かけては武士の島津氏が代々南鹿児島を治め、他の地域や国々からの文化を士族や町民に伝える施設を作るなど、積極的に環境を整えたといわれています。このような地理的要因、そして生活様式から、長期間の保存を要する船上への持ち込みに適した山川漬けや、貿易を通じて得られた原料を用いた黒酢、近隣地域の食文化を独自に発展させてうまれたさつま揚げが今の鹿児島県の食文化を作っているといえます。

(千葉)

 

2.2. 黒酢                  前へ 次へ 目次

黒酢は露天に並べられた壺の中で原料の糖化・アルコール発酵・酢酸発酵を行う製造方法がとても珍しいお酢で、今回訪れた調査地福山でしか作ることができません。最近の健康ブームにより知名度がどんどん上がっています。

実際に製造現場を見学させて頂きましたが、まず訪問して驚いたのがこの壺畑です。あたり一面に所狭しと壺が並んでいます。

ここ福山で200年以上も前から黒酢が作られるようになったのには2つの大きな理由があります。1つは海が近いために貿易が盛んで米がよく届いたこと、2つ目は寒暖の差が小さいことです。このために酢作りで必要な酵母菌や酢酸菌が屋外でも活動することができるのです。

壺の中は写真のように下から、下糀・蒸し玄米・地下水・上糀となっています。米の周りを削らない丸玄米を使用することで栄養価がとても高くなります。しかし一方で皮が厚いために中まで菌が入りづらく、発酵しにくい難点もあり、製造するうちの約1割は黒酢になることができないそうです。

仕込みは春と秋の2回行われ、完成までには1年半以上もの長い月日をかけて発酵・熟成が行われます。

黒酢の大きな特徴として、職人の巧みな技の存在があります。糀作りの際は職人が実際に食べたり触ったりすることでその進み具合を確認したり、発酵途中では壺の表面に浮かぶ雑菌を取り除いたりとかなりの時間と手間をかけた製造方法となっています。特にこの糀造りはとても大変で、まずは七分付きの玄米を回転がまで蒸し糀とともに一晩ねかせ、その後、三角棚で徹底した温度・湿度管理を行い職人による手入れがされようやく完成するのです。お酢になってからの熟成期間にコンニャク菌がはり、それを取り除く作業をします(手入れといいます)。

  

左上から仕込んで1年のもの・1年半のもの・10年のものです。1年のものは色も薄く鋭いすっぱさがありました。これはお酢にはなっているものの熟成がまだ進んでいないためです。1年半のものは色が濃くなり黒酢っぽさが表れています。味はもちろんすっぱさはあるのですが、かどがとれたように感じました。10年前に仕込んだものは色がかなり黒く濃くなり、壺の匂いのような独特の香りがしました。実際に商品となるのは熟成期間が半年から2年のもので、この理由は、壺独特の香りがつきすぎないようにするためです。また、人の手で1つ1つ手入れをしているために何年も管理していくことが難しいことも理由の一つなのでしょう。

最後に、黒酢の効果として、「代謝が高まり汗をかきやすくなった」、「肩こりが解消された」、「吹き出物が減った」、「お腹周りがすっきりした」などといった喜びの声がよくあるそうです。最近では黒酢を身近に感じるようなゼリーやスープ、フルーツの味付きの黒酢などといった商品も数多く販売されています。これまでの黒酢と違った印象になると思います。私もビルベリー黒酢を牛乳で割ってデザート感覚で飲んでみたり、黒酢を水とシロップで薄めて飲んでみたりと色々アレンジをしながら楽しんでいます。是非皆さんも一度試してみてください。 

(河野)

<調査協力>

福山酢醸造株式会社
鹿児島県霧島市福山町福山3559
https://fukuyamasu.co.jp/

 

 

 

 

2.2. さつま揚げ               前へ 次へ 目次

 さつま揚げは”薩摩”とついているように鹿児島の有名な製品です。関東ではおでんで食べるイメージが強いと思いますが、本場のさつま揚げはもともとお正月やお祝いの時に食べる行事食だと知って興味を持ちました。

 さつま揚げが鹿児島で作られるようになったのは、有名な島津斉彬公が薩摩藩主であった江戸時代です。この頃には琉球との交流が盛んになり、中国料理が伝わってきました。そこで鹿児島の豊かな海産物を保存するために作られていたかまぼこに、中国料理の揚げる技法が加わったことでさつま揚げが誕生したと言われています。魚をすり身にして塩を混ぜて熱を加えることで、長時間保存できるようになり、魚の身の弾力が増して歯ざわりもよくなることから日本各地でかまぼこが作られています。さらに、すり身にした魚を油でくぐらせると弾力が増すのでおいしいさつま揚げができます。

 さつま揚げの取材では工場で製造工程を見学することが出来ました。さつま揚げはエソ・アジなど新鮮な魚を原料としたすり身を使い、2回の摺り工程、2回の練り工程、成型工程を経て、2回フライすることで製造されます。さつま揚げの形は成型器を使うものもありますが、多くは手作業で棒状・小判型・球状に成型され、のりやしそを巻いたり、人参やごぼう等を入れたりされています。下の1枚目の写真は摺り工程の大きな石臼です。2枚目の写真は揚げ工程の機械です。

 

 

 

 

 

 

鹿児島の料理の特徴は地酒を使うことです。さつま揚げの味付けにも砂糖や塩に加えて鹿児島産の地酒が隠し味に使われています。鹿児島の地酒造りはあくを使うことが特徴的で、酒の酸を中和していることから独特の芳香や甘みが生まれるそうです。魚本来の味を活かしつつ味と品質にこだわった地酒を加えることで、鹿児島の甘さを好む食文化にぴったりなさつま揚げができます。

 お話を伺うなかで一番印象に残ったのは、「目先の損得抜きで商品を一生懸命つくる」という言葉でした。よく私たちがよく食べている大量生産のさつま揚げとは異なり、本場のさつま揚げとして熱を通さずに生のままでもおいしく食べることができるように、味と品質にこだわりとても良い原料を使っているそうです。また、旬を感じられるような季節に合わせたさつま揚げを考案し、その時々の鹿児島のおいしいものを伝えているそうです。例えば、春は菜の花天、夏はきびなご棒天やたまねぎ天、秋は黒ごま安納いも天・しいたけ天といったものが季節商品として売られています。これらには鹿児島県産の野菜、霧島産のしいたけや種子島産の安納芋などが使われています。お土産でいただいたさつま揚げをはじめて生のまま食べましたが、とてもぷりぷりで魚の味が感じられておいしさに驚きました。

 鹿児島のおみやげとして有名なおいしいものはたくさんありますが、私はさつま揚げをおすすめします。さつま揚げは歴史のある行事食で、本場鹿児島のさつま揚げは格別のおいしさでした。

 

(岡本)

<調査協力>

株式会社 有村屋
鹿児島市南栄3-24-5
http://www.arimuraya.co.jp/

 

 

 

 

2.3. 山川漬                 前へ 次へ 目次

山川漬とは、大根の漬物です。大根の漬物といえばほかにたくあんが思いつきますが、山川漬はたくあんとは見た目も味も製法も大きく異なります。山川漬はしわしわしており、茶色く、歯ごたえがしっかりとあります。また、発酵の前に極限まで大根の水分を抜いていることが特徴です。一方、たくあんは、水分をある程度残したまま発酵させるため、山川漬とくらべて柔らかく、見た目も大根の形を残しているものが多いです。

以下に山川漬の詳しい製法を記します。
一大根を冬の季節風と天日により、3〜4週間泥付きで寒干し。
泥付きで干すことで大根の表面が傷まぬようにしています。干し終わる頃には、大根はネクタイが結べるくらいまで柔らかくなります。

②海水で大根を洗う。
これによってカビが生えることを防ぐ効果があります。

③塩を塗りながら、杵で搗き、肉質を均一にする。
この操作で干すときに付けたままであった泥や汚れを落とします。

④再び天日干しする。

⑤底にすのこを敷いたかめ壺に大根を塩漬けする。

このときの大根は乾燥しているため、叩き込むようにして塩漬けにします。通常は密閉のために漬物容器に重石を乗せますが、山川漬の場合は大根の水分がほとんどなくなっているため、かめ壺には重石をせず、紙やビニールのようなものを重ねることで密閉したのち、木製のふたをかぶせます。かめ壺の下部は土の中に埋まっています。

⑥底に溜まった浸出液を定期的にポンプで抜き取る。

山川漬はかめ壺で漬けている間も水分を抜き続けます。

⑦密閉して3〜6ヶ月発酵させる。

⑧完成。

この段階の山川漬は乳酸菌による発酵が進んでいるそうです。

また、かめ壺は、底がすのこになっており、中央にはかめ壺の高さと同じくらいの長さのパイプがあります。この特殊な二つの構造によって、大根の水分をしっかりと抜いています。

山川漬が鹿児島県でさかんになった理由は、その気候にあると言えます。鹿児島県、特に山川の地域は温暖で冬季でも霜が降りないため、大根の干乾に適しています。

また、古くから、中国や朝鮮、琉球などの交易があったため、船で出かけ、外部の文化を取り入れる機会が多かったそうです。そのため、長期の保存に適した漬物の需要が高まり、その万人受けする味から、お土産にも用いられたとの記述もあります。

 

 現在では、県外に送るために大量に生産できる壺漬けや、三杯酢で味をつけた山川漬などが市場で出回っていますが、これらは残念ながら、味付けや包装の過程で乳酸菌は死んでしまうそうです。昔は、今のように真空パックに詰める等の処理をせず、かめ壺から出したままの山川漬が食べられていました。そのため、当時の山川漬は現代のヨーグルトのように、乳酸菌の働きによってできる発酵食品の代表的な位置づけにあったといわれています。

 三杯酢で味付けされた山川漬を食べましたが、水分を抜かれたことで大根が引き締まっており、2ミリほどの厚みしかないにもかかわらず、心地よい歯ごたえがしました。味は福神漬けに近いように感じました。飽きが来ない味と、今まで食べてきた漬物にはない食感で、箸が止まらなくなりました。

 鹿児島の気候と文化が生んだ素朴な漬物、山川漬、一度召し上がってみてはいかがでしょうか。

(千葉)

<調査協力>

有限会社 内薗賢漬物店
鹿児島県指宿市山川福元2963
http://www.uchizono-tsukemono.jp

 

 

 

 

2.4. その他                前へ 次へ 目次

1日目

【しろくま】

 一日目の取材のあとには念願のしろくまを食べました。

ふわふわのかき氷にフルーツをどっさり乗せて練乳をかけたものが鹿児島名物「しろくま」です。出てきたときはとても大きくて驚きましたが、あっという間に食べてしまいました。発祥の地である天文館のしろくまを楽しみました。

【夜ごはん~郷土料理~】

 鹿児島の伝統的な郷土料理をたくさん食べました。

左側の銀色に輝く魚は「きびなご」です。きびなごは10cmほどの小さな魚で、新鮮でなうちにいただくお刺身は鹿児島ならではです。酢味噌によく合いました。

こちらは「鳥刺し」です。地鶏のさつま若しゃもをお刺身でいただきました。とてもおいしかったです。鶏肉を生のまま食べる文化に驚きました。

左上が豚骨、真ん中のお椀がさつま汁です。右の漬物のうち上の茶色のものは山川漬でしょうか。さつま汁は鹿児島の伝統的な味噌汁です。野菜やお肉のぎゅっとつまったうまみを感じました。

2日目

【夜ごはん〜鶏飯〜】

 

 

 

 

 

 

 

 

鹿児島空港にてセルフサービスによる鶏飯を頂きました!
鶏飯とは鹿児島県奄美群島の郷土料理で、白米の上に鶏肉や卵、のり、紅ショウガなどの具をのせ、上からスープをかけて頂きます。
ほっとするようなお味でとても美味しかったです。盛り付ける具材によってかなり変化する料理だと思うので次回また鹿児島に訪れた時には食べてみたいと思います。

(河野)

 

3. 最後に                           前へ     目次

 本調査を通じて、鹿児島という土地でしかできない食品について勉強することができました。発酵と文化という、一見両者の関連を想像できないような二点に焦点を置き、調査を進めましたが、様々な条件と人々の努力があってこそ成り立っている食文化を知り、感銘を受けてばかりでした。訪問させていただいた皆様、鹿児島で長い歴史をもつ食品に関して、丁寧に取材に応じてくださりありがとうございました。伝えてくださった食品に関する誇りや知識をしっかりと考え、他の都道府県との共通点などを探してみたいと思います。

(千葉)

 高校生の修学旅行で種子島、屋久島を訪れ、とても楽しかった思い出があり、今回の調査も鹿児島にまた行きたい!と思ったことがきっかけでした。実際に調査した際には訪れた先全ての人にとても親切にして頂き、更に鹿児島が好きになりました。鹿児島の魅力全部を感じ取れるようになるまで何度でも行ってみたいと思っています。 また調査内容に関して、普段食べるものは美味しいと思うことはあってもその製造現場を見ることは滅多にないため、工夫されている点や苦労されている点を細かく知ることでその食品に関する見方が変化したように思います。私たちが実際にその食品の製造に接することはありませんが、発酵という科学の方向から何か関わることができたら嬉しいです。この貴重な機会で得たことをより発展させていけるようにしたいと思います。

(河野)

 今回の食文化調査で訪れた鹿児島県は、江戸時代には鎖国中でも琉球との窓口となり、その後明治に移り行くときには西郷隆盛や大久保利通など薩摩藩出身者が大活躍したように歴史と文化のある場所です。私が担当したさつま揚げはそのような歴史から生まれた食文化です。それを実際に生産されている方々からお話を伺うことで、こだわりや熱い思いを知ることができました。黒酢や山川漬も地域に合わせて工夫を重ねて続けられてきた食文化だと実感しました。現地調査を通して、鹿児島特有の誠実な人柄や親しまれている桜島の景色を肌で感じながら、これまで文化を守ってきた歴史に思いをはせました。
 日本の各地域には気候や風土、歴史をもとに発展した食文化があります。そのような文化に少しずつ触れることができて、食の奥深さを感じました。昔の人の技術と知恵から誕生して今まで受け継がれてきた文化が、人々の生活を支えていることが分かりました。この食文化調査で協力してくださった方々に心から感謝いたします。今後もここで得られた知識や気づきを活かしていきたいです。

(岡本)

 

参考文献

鹿児島県公式ホームページ
http://www.pref.kagoshima.jp/kenmin/index.html

鹿児島県ウィキペディア
https://ja.wikipedia.org/wiki/薩摩藩

10分でわかる!鹿児島
http://www.kagoshima-kankou.com/about/2/

鹿児島県/ふるさと認証食品(山川漬)
http://www.pref.kagoshima.jp/ag04/sangyo-rodo/nogyo/suisin/ninsyou/furusatoyamagawaduke.html

内薗賢漬物店ホームページ
http://www.uchizono-tsukemono.jp/original.html

指宿まるごと博物館
https://www.city.ibusuki.lg.jp/marugoto/spot/山川漬①〜伝統的な作り方〜/

 

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