「微生物ゲノム×地域」で 食のブランディング

茨城県の食文化

茨城県(水戸藩)の食文化

調査班:伊藤健地、小山夏花  調査日:2018年9月5日、13日

目次

1. 風土・歴史

2. 調査した郷土食

2.1. そぼろ納豆
2.2. しもつかれ
2.3. 醤油

3. 最後に

1. 風土・歴史                       次へ 目次

 茨城県は県の最も南で首都東京の中心から40km、県の最北端で100kmの圏内にあります。県の東側は太平洋に面し、北側には八溝山をはじめとする山々があります。南の県境は利根川になっており、日本で第二の大きさの湖霞ヶ浦があるなど豊かな水にも恵まれています。県の中心には筑波山があり、県のシンボルとなっています。県全体は平坦であり、面積に対する可住地面積の比が非常に大きいのが特長です。冬は寒さが厳しいですが、冬を除けば比較的温和で降雨を除けば気象災害も少ない地域です。台風は茨城県の産業のあり方に影響を与えていることもあります。
(小山)

 

2.調査した郷土食

2.1. そぼろ納豆              前へ 次へ 目次

 茨城県、水戸市と言えば水戸納豆ですが、水戸納豆を使った料理そぼろ納豆をご存知でしょうか。茨城県の郷土料理として2007年に農林水産省により農山漁村の郷土料理100選に選ばれてもいるものです。今回は納豆及びそぼろ納豆の製造を手掛けるだるま食品株式会社様、そして長年納豆の研究をなさっている産業技術イノベーションセンターの長谷川様を訪問させていただきました。

 まずはじめにそぼろ納豆とは、発酵を終え完成した納豆に、割り干し大根を小さく刻んで混ぜ、これに醤油などを用いて調味したものです。  納豆の柔らかい触感に対して、割り干し大根の歯ごたえが良くあうということで長年大根が用いられてきました。そぼろ納豆がいつ頃作られるようになったかは定かではありません。しかし、大根は秋に収穫し、できるだけ長く食べられるように11月から12月にかけて干されていて、また納豆も冬に作られていたということで、この2つを混ぜて塩分を加えて冬場を乗り切るために保存食とされてきており、冬場食料が乏しかった時代から作り続けられてきたということのようです。

 

 さて、そぼろ納豆に必要な納豆はどのように作られるのでしょうか。納豆の原料は大豆。まず初めに蒸した大豆に納豆菌を付けます。納豆菌は、乾燥菌や懸濁液の状態で購入し使用しているそうです。納豆菌をつけた大豆を39~40℃で適切に管理することで保温・発酵させます。その後一度冷やすことで発酵を止めて完成させます。納豆の発酵を成功させるのに必要なものは養分、水分、温度、酸素。特に大事なものが温度であり、温度の管理が納豆のねばりを決めるのだそうです。また、菌を扱う現場だけに、納豆菌以外の菌などの付着には非常に気を使います。食中毒などに注意するのはもちろんのことでありますが、そのほかに、細菌がバクテリオファージに感染すると納豆の粘りが出なくなってしまうということでファージには注意を払っています。

 水戸納豆が有名になった理由として小粒大豆を使っていたということが挙げられます。以前より納豆は全国で大粒大豆を用いて作られていましたが、茨城県では水害を避けるために早生品種の小粒大豆が多く用いられていました。この納豆が水戸線が開通した明治時代以降美味しいと評判になり全国的に水戸の納豆が有名になったのです。今では全国で小粒納豆が製造されています。

 水戸納豆と言えば、藁に包まれたイメージがありますが、なぜ藁に包むのでしょうか。かつては、納豆菌が藁にいるということで、納豆菌を蒸した大豆につけ発酵させるためでした。しかし、現在では「納豆菌」を溶かした懸濁液が販売されているということで、藁の納豆菌をつけるということはしていないようです。懸濁液を蒸した納豆にかけて、スーパーでよく見かける白いパック、またはしっかりと消毒・殺菌された藁にくるんで発酵させているということです。菌が呼吸できるように、納豆のパックの内蓋(フィルム)には穴が開いているのはご存知でしたか?藁に包まれた納豆は藁の香りがほのかに納豆に移って未だ根強い人気がある一方でパックに比べて密閉度が低いことから水分量が減りやすいという問題があります。パック納豆は発酵の過程を経過しても3%程度しかへりませんが、藁に包まれた納豆は約95gの煮豆が発酵の過程を経過するとなんと約70gにまでおよそ25%も減ってしまうのだそうです。冷蔵庫保存の際もなるべく早く食べるようにしたいですね。同じ藁に包まれた納豆でも実は2種類あります。一つはすだれ状につないだ藁で納豆を捲き、両端を紐で縛る、ロケットと呼ばれるもの。もう一方は多めの藁を並べ、真ん中あたりに豆をのせ、半分に折りたたんで、折り目と逆側を紐で縛ったわらづとと呼ばれるものです。前者は藁が薄いため、藁と納豆の間にビニールシートを入れています。本来は藁のみを使うわらづとを使っていましたが、乾燥しやすいことや品質管理が難しいことから、現在では両方が使われています。

日本の食卓には欠かせない納豆ですが、普段深く考えることのないようなお話に触れることができ非常に興味深かったです。納豆漬けは納豆よりもさらに手軽に食べられる料理ですので、ぜひごはんとともに食べてみていただきたいです。

(小山)

<調査協力>

だるま食品株式会社
茨城県水戸市柳町1-7-8
http://www.darumanatto.jp/

 

 

 

 

茨城県産業技術イノベーションセンター
茨城県東茨城郡茨城町長岡3781-1
http://www.kougise.pref.ibaraki.jp/

 

 

 

 

 

2.2. しもつかれ               前へ 次へ 目次

 しもつかれは北関東で食べられており、郷土料理として2月第一の午の日に作られます。言伝で広がったため地域によって呼び方が異なり、茨城県ではすみつかれと呼ばれています。こちらについて、JA北つくばのご協力を得て筑西市で農業をされている石嶋様からお話を伺いました。

 しもつかれは、大豆・人参・大根・酒粕・油揚げ・鮭の頭等を用いて作られますが、家庭の好みによって、味や色合いを良くするために葱や醤油等を混ぜたり、反対に材料を除いたりするそうで、「これがなければならない」という材料は特にないそうです。作り方は、火の通りを考慮して、アク抜きした鮭、大豆、鬼おろしで粗くすりおろした人参と大根の順に鍋で煮詰め、最後に酒粕を加えます。10日間分を一度に作るので、朝方から夕方まで煮詰め続けるそうです。また、鬼おろしは基本的にはしもつかれを作るためにしか用いられないので、1つあれば1世代使い続けることができます。

 JA北つくば下館支店様より、しもつかれの調理写真をいただきましたので、このときに使用した材料と合わせてご紹介いたします。

 

 ところで、材料とされる大根や人参は冬に収穫され、保存しておくことができます。また鮭は、正月にほぐした身を餅に付ける鮭餅を食べる習慣があり、残った頭をしもつかれに使うために塩引きにして保存しておきます。更に大豆は節分で残ったものを用います(ただし節分よりも早い場合もある)。昔は貧しかったため、食べ物を捨てるところなく使って食べたのが始まりとされており、大根等の野菜はすりおろしてしまうことで形が均一になるためどの部分でも使えるようになり、鮭も現在では捨ててしまう頭を煮込んで使うため、環境に優しい料理と言えます。
 食べ方としては、しもつかれをおかずとして赤飯と一緒に食べますが、腹持ちも消化も良いのでご飯の代わりに丼一杯食べる人もいるそうです。七軒のしもつかれを食べると病気にならないという言い伝えがあり、集落ごとに集まりしもつかれを持ち寄って食べますが、各家庭ごとに全く味が異なり、口に合わないことも多いそうで、食べても味見程度だそうです。
 茨城県においては栃木県に隣接している筑西市及び県西地区の農家の方の間で食べられており、材料に鮭を用いることから、鮭が揚がる鬼怒川や利根川沿いの地域で広がっていました。従って川から離れると全く異なる食文化が見られるようになります。正月に鮭餅を食べるのもこの地域特有の食文化となっています。
 現在はハウス栽培や輸入等で季節に関係なく何でも食べられるようになっていますが、しもつかれは農家の方の間でよく食べられるので、季節を感じることができる料理の1つと言えます。

 また、きゅうりの収穫時期だったため、「酢だれ麩」を作っていただきました。酢だれ麩は明治時代頃から結城市において冠婚葬祭のときに食べられます。板状のお麩を細く切ってお湯で戻し、生きゅうりや塩漬けのきゅうりの塩抜きをし、すり胡麻とお酢、味噌、砂糖等と一緒に和えて作るそうです。お麩のもっちりした食感ときゅうりのシャキシャキ感、また胡麻の良い香りがして大変美味しかったです。さっぱりしているので、個人的には夏場におすすめの料理です。お麩は小麦粉でできており乾燥させてあるので保存性が良く、またきゅうりも塩漬けにしておくことで保存できるので、ハウス栽培や輸入に頼らなくても時期を問わず食べることができる優れた料理と言えます。

 しもつかれは栄養価も高く、好みによって材料も作り方も自由に変えることができるので、材料が余ってしまったときには是非作ってみてください。

(伊藤)

<調査協力>

 北つくば農業協同組合
 茨城県筑西市岡芹2222
 http://www.ja-kitatsukuba.or.jp/

 

 

 

 

 

2.3. 醤油                  前へ 次へ 目次

 茨城の土浦市は江戸時代は醤油の三大名醸地として知られた場所。醤油のことを紫というのは土浦から良く見える筑波山の雅称が紫峰だからという言い伝えも。また、醤油のことをお下地ということがありますが、これも茨城県の醤油の品質がよく江戸時代に醤油を「お常陸」とよんでいたからなのだとか。今回は土浦の醤油の伝統と歴史を守っていらっしゃる柴沼醤油醸造株式会社様にお話を伺いました。

 まずはじめに基本的な醤油の作り方を見ていきます。醤油の原材料は大豆、小麦、麹菌、塩水。ゆでた又は蒸した大豆と小麦に麹菌を加えてできるもろみを発酵させます。十分に熟成したら絞り、この絞り汁が醤油となります。土浦の醤油は古くからは丸大豆から作られていますが、現在では脱脂加工大豆を使用することが多いとのことです。醤油の圧搾の後に出る搾りかすは茨城県内の酪農牧場で餌になります。搾りかすに含まれる豊かな塩分が餌として非常に適しているのだそうです。醤油づくりは材料を残すところなく使用する環境にやさしいものなのです。

 環境にやさしいのはそれだけではありません。発酵の管理の際に大きな熱を加えたり、取り除いたりということは基本的に行わないのです。通常自宅でヨーグルトや納豆など発酵食品を作る際に温度管理が大事なことからもわかるように、醤油でも温度管理が大切であることは想像がつくと思います。かつては火をたくことで温度を上げることはできても夏場に温度を下げることはできず、一年間の寒暖差を利用し、土蔵にて発酵が管理されていました。現在では最新式の温度が自動で管理できるようなものももちろんありますが、驚くことにまだ自然の温度に任せて温度管理をしていることも多いのだとか。冬場の寒い時期に仕込みを行い(寒仕込み)、10℃の食塩水を加えて、発酵により発生する熱と季節による温度上昇で少しずつ温度が上がっていきます。

 発酵の際には今でも木桶を用いています。

 杉の木を用いて木桶職人が作った桶は非常に丈夫で、明治時代のものも未だ現役で使われています。木桶や、木桶のある蔵に住み着く菌により、各製造者独特の風味が出ます。一つの木桶の容量はなんと6000から9000L。写真からもわかるように人ひとりすっぽり入れるような直径の非常に大きい木桶ですが、メンテナンスはどのようにしているのでしょうか。基本的に塩分濃度が高いために雑菌が繁殖することはありませんが、木桶に水分がつき塩分濃度が下がると雑菌繁殖の可能性が非常に高くなります。そのため、何か問題があって木桶を洗う必要があるときには水では洗わず、完成した醤油で洗います(共洗い)。ちなみに、大きな木桶の中身を混ぜている際に人が落ちてしまった場合はどうするのでしょうか。すぐに溺れてあっという間に姿が見えなく…ということにはならず、塩分濃度が高いために浮くことができるのだそうです。もちろん一人では上がれないので他の人の手を借りる必要がありますが。

 柴沼醤油様の屋号がキッコーショウであるように、醤油のブランドにはキッコーがつくことが多くなっています。これは、かつて醤油製造が非常に盛んだった土浦のお城土浦城が六角形、すなわち亀の甲羅の形をしており亀城と呼ばれていたことに由来します。土浦のお殿様が土浦のブランドを示すために土浦でできた醤油にはキッコーをつけるようにと命じたのだそうです。今では醤油と言えばキッコーということで、全国で使われるようになっています。

 今回の取材では醤油のいい香りに包まれながら製造設備、実際の製造の様子を見せていただき、日本人として日々醤油を口にできているありがたみを感じました。ありがとうございました。

(小山)

<調査協力>

柴沼醤油醸造株式会社
茨城県土浦市虫掛町374
https://www.shibanuma.com

 

 

 

 

 

3. 最後に                          前へ     目次

 毎日の食卓に欠かせない納豆の料理納豆漬と醤油について取材をさせていたき、製造の現場をみせていただいたことで食に関する興味が非常に強くなるとともに、日常何気なく食べている食事が非常にありがたいと思えました。取材を受けていただきありがとうございました。
(小山)
 
 今回の調査を通して、伝統的な料理には食べ物を無駄にしない工夫をしたり、保存食を組み合わせて作ったりしている事がわかり、限りある資源を有効に使う知恵が詰まっていると感じました。更に、料理のルーツを知ったり実際に作っているところを見学したことで、普段何気なく食べているものがどのようにできているのか考えるきっかけとなりました。また、生産者のお話を聞くことができ、調査対象だった品目以外の食べ物や文化との繋がりを知り、より理解を深めることができました。現在国内における食料自給率は低く、また多くの中小規模の生産者が様々な理由で廃業していますが、この記事を通して多くの人に食に対する関心を持ってほしいと思いました。
(伊藤)

 

 参考資料

・農林水産省 子どもの食育
http://www.maff.go.jp/j/syokuiku/kodomo_navi/cuisine/cuisine2_1.html
・私の根っこプロジェクト 食の歳時記・旬の味 しもつかれ
http://www.i-nekko.jp/shoku/2013-020909.html
・坂東市HP
http://www.city.bando.lg.jp/page/page002335.html
・しもつかれとは茨城県の郷土料理だ!その作り方と名前の由来は?
https://www.jon123.com/shimotukare/

 

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