「微生物ゲノム×地域」で 食のブランディング

北海道(札幌、江別、石狩、小樽)の食文化

北海道(札幌市、江別市、石狩市、小樽市)の食文化

調査班:河野真子、宮竜太朗  調査日:2019年3月13日-15日

目次

1. 風土・歴史

2. 調査した郷土食

2.1. 発酵バター
2.2. 石狩鍋
2.3. 飯寿司
2.3. その他の郷土料理

3. 最後に

1. 風土・歴史                       次へ 目次

 日本で5番目の人口を擁する札幌は、北海道の政治、経済、文化の中心地であるとともに、郊外には雄大な自然が広がっています。積雪量が年平均600cmの雪国ならではのイベントも多く開催され観光地としても有名です。生活する上では除雪対策や地下道の設備が充実しているために、雪による不便さはかなり軽減されています。
 北海道の歴史は1869(明治2)年に蝦夷地から「北海道」と改称されることから始まります。開拓使が派遣され、札幌本府の建設が始まり、1876年には札幌農学校(北海道大学)が開校されました。現在においても北海道旧本庁舎や札幌市時計台などと共に歴史を語る建物として残っています。
 また、農業漁業酪農が盛んな北海道では新鮮な食材を使った様々な食を楽しむことができます。今回調査した発酵バター・石狩鍋・飯寿司はそれぞれ牛乳、魚と野菜を使ったものであり、その他にも羊肉のジンギスカンや肉と野菜のスープカレーなどがあります。このように1つの品目だけではなく、多くの食品を利用できることは北海道の大きな魅力となっています。
(河野真子)

 

2.調査した郷土食

2.1. 発酵バター              前へ 次へ 目次

 農林水産省のデータ(文献1)によると現在、国内で作られているバターの約86%が北海道産です。バターには有塩・無塩や発酵・非発酵と、さまざまな種類があります。ところで、発酵バターというと日本人にはあまり馴染みのないバターですが、実はヨーロッパ発祥の食材で、欧州ではよく食べられています。そんな発酵バターを作っている町村農場の町村さんに取材に行きました。

 町村農場は、大正6年に町村敬貴さんが原野だった石狩の地に創設した農場です。現在は江別に移転し、東京ドーム30個超の広さの牧草地を有しています。

 北海道で酪農をすることのメリットとしては、牛の飼料を自分たちの地で作れる上、冬は雪の下で牧草地を休めることができることです。自作の牧草は、安く安定した餌の供給を可能にします。また、自分たちで作っているため、納得した飼料を牛に与えられ、乳牛の健康を考えられるのです。

 日本の端に位置する北海道からの製品の移動は難しいですが、そのため、地元にしっかりと根付いています。

 町村さんは、有塩、無塩バターの次の商品として発酵バターを作り始めたそうです。できたバターに乳酸菌を加える方法と、クリームに乳酸菌を入れてバターにする方法、という二種類の製法があります。町村さんは、後者の方法に挑戦しました。

 糖を分解する乳酸菌で、脂肪主体のクリームを発酵させるのは至難の技でした。文献を参考にしながら、メーカーからいろいろな乳酸菌を購入し、クリームに入れて一晩寝かせ、その乳酸菌でクリームが発酵しやすいかを調べたそうです。試行錯誤の末、4種類の乳酸菌にたどり着き、現在の発酵バターが完成しました。

 購入された方の多くは、このバターをどのように使えば良いか疑問を抱きますが、普通のバターと同じように使えば良いそうです。
 発酵バターは揮発しにくいので、缶を開けても、そのまま口に入れても、通常のバターとの違いに気付きにくいです。しかし、お菓子作りなど、火を通すと発酵バター特有の濃い香りが広がります。
 私も、購入した発酵バターを鶏肉とソテーにしたり、フランスパンにのせて焼いて食べたりしました。口に入れた後に、鼻に残る深い香りが特徴的で、プレゼントした母もすごく喜んで使っています。

(宮竜太朗)

<調査協力>

 株式会社 町村農場
 北海道江別市篠津183番地
 http://machimura.jp/user_data/company.php

 

 

 

 

2.2. 石狩鍋                 前へ 次へ 目次

 北海道の郷土料理、石狩鍋を知るため、私たちは「いしかり砂丘の風資料館」と料亭「金大亭」に取材に行きました。
最初にお話を伺ったのは、いしかり砂丘の風資料館の学芸員、工藤さんです。工藤さんは、石狩を知るために様々なことを研究されている学芸員の方で、石狩鍋を歴史的に研究されています。

 お話を聞くと、石狩鍋は思いのほか新しい時代に出来上がった料理でした。キャベツなどの石狩鍋に使われる主な食材は明治以降に入ったもので、石狩鍋の先駆けとなった料理は、現在の形とはかなり異なるものだったようです。

 石狩鍋の先駆けとなった料理に「台鍋」があると言われています。台鍋は札幌の醜女(しこめ)で知られた遊女と同じ名で、その鍋の見栄えもあまり良いものではなかったのではないかと言われます。現在の石狩鍋も鮭のエラや内臓などのアラを入れますので見た目はちょっと刺激的です。石狩町では鮭のアラを使う台鍋が盛んに食べられており、戦前には味噌味の台鍋=石狩鍋が完成します。

 本来、石狩鍋という料理は、石狩町で食べられていたローカルの料理でした。石狩鍋という名前が定着するのは戦後のことです。昭和20年代後半に石狩町に鮭地引網漁を見に来た観光客に振舞ったことから広く知られるようになりました。生の鮭が豊富に水揚げされる石狩ならではの「鮭のアラの美味しさを愉しむ料理」それが石狩鍋と言えるのです。

 ところで、魚のアラを入れた鍋、というのは全国の漁村周辺で生まれていてもおかしくありません。なぜ石狩だけが、石狩鍋にまで進化したのでしょうか?
 石狩弁当といえば鮭が必須であるように、石狩と聞くと、鮭のイメージが強いです。
 工藤さんの研究によると、 石狩という地名と鮭のイメージが強く結びついたのは、江戸時代だったと考えられています。その頃、エゾの鮭といえば石狩でとっていた印象が強かったそうです。また、エゾといえば、資源豊富で、粗く大胆なイメージが定着しており、それと石狩鍋の、大胆に鮭を使う料理法には関係があると思われます。そうすると、鮭の料理法そのものが石狩鍋であるとも言えます。

 

 戦後の旅館の広告や、レシピ本を遡って調べると、石狩鍋を最初にその名前で出したお店は、「金大亭」の可能性が高いそうです。
 そこで、私たちは金大亭の女将に取材に行きました。お話くださったのは、金大亭の4代目女将、石黒聖子さん。お一人で切り盛りされています。金大亭では、石狩鍋をはじめ、さまざまな鮭料理を頂くことができます。

 金大亭は1880年に創業しました。建物も修理はされていますが、当時のものとなっています。内装や置物は非常に趣深かったです。建物だけでなく料理法についても、石黒さんは、受け継がれている作り方を忠実に守って料理を作られています。全ての料理は、創業当時の139年前に出されていた時と同じ味を保っているのです。当時からこの金大亭で「鮭なべ」と称して提供されていました。秋に取れた鮭は、巨大な冷凍庫で保存され、一年を通して供給できるようにしてあります。昔はそのような設備はありませんので、石狩鍋は秋から冬明けだけの料理でした。「鮭一匹に捨てる所は無い」と石黒さんはおっしゃいます。石狩鍋を含め、鮭を丸々料理に使っていくのです。

 石狩の昔の話も聞かせていただきました。金大亭の創業時、石狩は非常に栄えていました。この地で、鮭も獲れましたし、味噌もキャベツも作られていました。石狩鍋に必要なものはなんでも揃ったそうです。秋から冬明けにかけて、多くの家では石狩鍋を作って家族で食べていました。秋に獲った鮭を使うため、石狩鍋は「あきあじの鍋」や「鮭鍋」とも呼ばれていました。当時は鮭鍋を出していたお店は、金大亭以外にもいくつもあり、お店ごとに入れる野菜やこだわりが違っていました。金大亭のこだわりを少し教えていただきました。白菜ではなくキャベツを入れるのは、より甘みが出るからで、山椒の実を加えるのは風味を出すためだそうです。これらのこだわりは140年近く受け継がれてきました。

 いただいた石狩鍋は、鮭のアラから出た出汁によって、味噌の強い主張がなくなり、おだやかな風味になっていました。柔らかくなった鮭の身は、舌と上顎で潰せるくらいに柔らかく、玉ねぎとキャベツの食感が、つきこんにゃくのそれと相まって、非常に口当たりが良かったです。北海道に来たら是非一度はいただきたいお料理です。

(宮竜太朗)

<調査協力>

いしかり砂丘の風資料館
北海道石狩市弁天町30-4
http://www.city.ishikari.hokkaido.jp/museum/introduction.html

 

 

 

 

 

金大亭
北海道石狩市新町1

 

 

 

 

 

 

2.3. 飯寿司                 前へ 次へ 目次

 飯寿司とは、北海道から東北地方、北陸地方の海岸沿いの寒い地域で冬の保存食として生まれた、魚と野菜をご飯と麹と共に漬け込み乳酸発酵させて作る郷土料理のひとつです。

使う魚は鮭、にしん、ホッケ、ハタハタなどがあり、野菜はキャベツ、大根、ニンジン、きゅうりなどを使っています。
作り方を簡単に説明します。
①木樽に笹の葉を2~3枚敷き野菜を少量散布して、魚の切り身を重ねる。
②炊いた白飯を冷まし、温湯に浸して柔らかくした麹を混ぜて魚の上に敷き詰める。
③②を1段とし、樽がいっぱいになるまでこれを繰り返す。
④1か月程度漬け込む。
⑤樽をひっくり返して発酵させている間に出てくる発酵水を流す。
⑥もう一押しして凝縮させる。

 もともと飯寿司は冷蔵冷凍技術のないころ、冬の間に摂取する貴重なたんぱく源として誕生しました。そのため冬が来る前に各家庭で漬け込み、そしてお正月などにお祝いの料理として食べていたそうです。
 今回の調査では、石狩鍋をはじめとする鮭料理を提供している金大亭さんと小樽にて水産加工品を製造、販売されている小樽かね丁鍛治さんにお話を聞きに行きました。

 石狩鍋でも取材をさせていただいた金大亭では、女将の石黒さんが創業当時のレシピを受け継いですべての料理を作られています。飯寿司の材料は鮭とキャベツ、ニンジン、大根に加え、しょうがと山椒も一緒に漬けこんでいます。山椒を加えることは金大亭ならではで、味のアクセントになっています。

 飯寿司も下準備から漬け込みまで全て手作業で作られていますが、漬け込む期間の判断は難しく、これまで何度も失敗をされて今にたどり着いたのだそうです。麹によるあわが樽のふちに出てくることを完成の目安とされているのですが、数日ずれることで味が変化してしまうので見極めが重要です。麹を扱う難しさが感じられます。
 また、一つの樽に鮭は8匹も使うそうで、これをいくつも作るのはかなり骨が折れる作業だと思います。
 こちらが、金大亭の鮭の飯寿司です。

 鮭はかなり噛み応えの弾力のある食感に変化していました。味、香り共に強い印象です。初めて食べる飯寿司でしたが、独特の味に驚きつつ一口一口じっくりかみしめながら楽しみました。

 小樽かね丁鍛治さんで製造されている飯寿司は4種類(紅鮭、ハタハタ、ホッケ、ニシン)あります。
 以前はすべて北海道産のものでしたが、乱獲により北海道の漁獲量が減少してしまったために、現在では紅鮭とニシンは海外のものを利用されています。そして、それぞれがベストな味になるように発酵期間や調味料の具合を調整されているそうです。特にハタハタは一匹まるごと漬け込むために、酢の力も利用して骨まで柔らかくなるように考えられています。
 また、乳酸発酵のしやすい温度湿度で管理することで、家庭では1か月程度かかる期間を10日~15日で行っています。発酵具合はベテランの従業員さんが発酵させている間に発生する発酵水をなめて確かめます。

 実際にホッケの飯寿司をごちそうになりました。甘味があってかなり食べやすく、身がしっかりしているためにとても満足感があると思いました。

 以前は小樽で10社あった飯寿司の製造会社も今では3社にまで減少してしまいました。各家庭に冷蔵庫があり飯寿司という保存食を作る必要がなくなったこと、また、飯寿司を作るにはかなりの手間を要することや、自家製の飯寿司によるボツリヌス菌中毒が発生してしまった事などから、家庭でもあまり作られなくなりました。しかし、飯寿司はそれだけで一品になる手軽さがあり、幼いころから家庭で出されて食べ慣れている北海道の人にとっては親しみのある食品です。関東ではなかなか出会えない飯寿司の魅力にもっと多くの人が触れてほしいです。

(河野真子)

<調査協力>

金大亭
北海道石狩市新町1

 

 

 

 

 

株式会社小樽かね丁鍛治
北海道小樽市長橋5丁目2番6号
http://www9.plala.or.jp/kajisyouten/

 

 

 

 

 

2.4. その他の郷土料理            前へ 次へ 目次

この3日間で出会った北海道の食をご紹介します!

町村農場で頂いたカマンベールを丸ごと使ったチーズフォンデュです。贅沢な一品でした。また、牧場に来たら牛乳は必須です。ミルクのいい香りでホッと一息です。

北海道といえばジンギスカンですね。新鮮な羊肉はレアで食べることもできます。

おいしい牡蠣もお手頃価格で頂けてしまいます。

金大亭では鮭尽くしの料理を頂きました。

スープカレーはこれでもかというくらいいろんな種類の野菜がたくさん入っています。札幌駅周辺にはスープカレー屋さんがいくつもあるので、食べ比べしてみるのも楽しそうです。

小樽に来たらやはり海鮮丼は欠かせません。一切れが大きく大満足です。新鮮な海鮮を堪能できました。

(河野真子)

 

3. 最後に                          前へ     目次

 今まで自らコンタクトを取って取材をお願いしたことがありませんでした。取材に行く前の方が大変だったかもしれません。訪問先では興味深いお話をたくさん聞けて、北海道のおいしいものを3日間食べられて、家族にお土産も買えたので、すごく満足しています。ご協力くださった皆様には感謝申し上げます。ありがとうございました。
(宮竜太朗)
 
 2度目の食文化調査でしたが、情報すべてが新鮮でまだまだ出会えていない「食」というものがたくさんあるのだなと思いました。また同時にそのような「食」を深く学び実際に取材までさせて頂ける機会は滅多になく、今回参加することができとてもうれしく思います。取材では本当に多くのことを教えて頂いたのですが、記事にまとめる上で全てを載せきることができませんでした。その代わり自分の身近な人に発酵バター・石狩鍋・飯寿司の魅力を積極的に伝えていきたいと思います。今回、取材を快く承諾してくださった皆様、またぐるなびのスタッフの方々に誠にありがとうございました。
(河野真子)

 

 参考資料

 1. 農林水産省 我が国における酪農・乳業について
  (http://www.maff.go.jp/j/chikusan/gyunyu/lin/attach/pdf/index-137.pdf)  2. 札幌観光旅行 北海道札幌市観光サイト ようこそ札幌
  (http://www.sapporo.travel/learn/basicinfo/
 3. 「飯寿司」北海道の家庭料理シリーズ(6)
  (http://www.hokkaidolikers.com/articles/1761

 

食文化調査結果一覧に戻る

PAGETOP
Copyright © ぐるなび 食の価値創成共同研究 All Rights Reserved.
Powered by WordPress & BizVektor Theme by Vektor,Inc. technology.