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千葉県の食文化

千葉県(佐倉藩、館山藩、関宿藩)の食文化

調査班:岡本 悠作、徳富 可子  調査日:2019年3月19日-20日、26日

目次

1. 風土・歴史

2. 調査した郷土食

2.1. 醤油
2.2. なめろう
2.3. おり漬

3. 最後に

1. 風土・歴史                       次へ 目次

 温暖で自然が豊かである千葉には、1万年以上前から人々が生活しており、豊かな生活をしていたことが予想できます。江戸時代には、利根川による物資輸送が盛んになり、醤油などの醸造業が栄え、現在醤油の生産量が一位となっています。今では世界中に千葉県の醤油造りが広まっています。また、江戸時代には日本初の酪農が行われ、生乳生産量は全国上位を誇ります。
 「見返り美人図」の作者、菱川師宣や、躍動感と立体感にあふれる彫刻が葛飾北斎の「富嶽三十六景」に影響を与えたと言われている、「波の伊八」の異名を持つ武志伊八郎信由などの、画期的な芸術・文化の作者も千葉県で生まれています。
 太巻き祭り寿司や、なめろうなど、長い歴史を経て今に伝わる伝統的な郷土料理があり、また古くからの米どころので日本酒造りも盛んに行われてきました。現在では40ほどの酒造があります。
 首都東京に隣接するベッドタウンとして成長してきた千葉県では、自然と調和した住環境を持ち、週末に家族で過ごすことのできる憩いの空間も数多くあります。また、温暖な気候と豊かな大地を持ち、そして海に囲まれているので、新鮮な食材がすぐに手に入る食の宝庫となっています。農業産出額は4711億円で、全国4位の農業県となっています。野菜においては全国3位の1927億円の産出額となっていて、米は666億円、畜産は1354億円と、バランスの取れた農業生産県となっています。また、食卓にのぼる野菜のうちほとんどを生産していて、平成28年度の全国一位の生産量の品目は14品目にもおよびます。
 そんな豊かで多様な自然環境を持つ千葉県では、人々の生活に潤いと豊かさが与えられ、心と身体に健康がもたらされるでしょう。
(岡本 悠作)

 

2.調査した郷土食

2.1. 醤油                 前へ 次へ 目次

 醤油は日本人の食生活に絶対に欠かすことのできない調味料であり、海外からも注目を浴びています。千葉県の醤油の生産量は日本一位で、日本全国の3割を占めています。野田と銚子にあるキッコーマン食品や、ヤマサ醤油、ヒゲタ醤油などが有名です。
 千葉での醤油の醸造は、1645年に紀州から浜口儀兵衛が移り住みことから開始されました。醤油の原料である、大豆や小麦や塩が近辺からすぐ調達できることもあり、銚子の醤油産業がすぐに発展しました。寛永年間(1624年~1643年)に幾度もの改修工事を経て、利根川が現在の流路に整えられ、江戸を洪水から救うとともに、江戸~銚子間の利根水運が開かれ、その水運を利用することで、原料の入手から消費地である江戸への運搬までを簡便に行うことができるようになり、醤油作りは更に発展していきました。現在千葉県で主に生産されている醤油は濃口醤油であり(現在の醤油の流通量の8割は濃口醤油)、ヒゲタ醤油が初めて濃口醤油を作りました。その濃い味が江戸の人々の趣向に合ったため、利根水運を利用して多数の醤油が運搬され、千葉の醤油作りが栄えていきました。関西では薄口が好まれたと言われています。
 醤油の基本の原料は大豆、小麦、塩です。蒸した大豆と、炒って砕いた小麦を混ぜると水分を含んだ大豆の表面に、粉状になった小麦がくっつきます。それに麹菌をつけて繁殖させていき、麹をつくります。この間、湿度は100%近くにしておくそうです。

その後、麹に塩水を混ぜてもろみをつくります。

 もろみを熟成させて搾ったものが醤油となります。もろみは、人工的に温度調節できる環境では6ヵ月ほど、四季の温度変化にゆだねる場合では1~2年熟成させていきます。もろみを包んだ布を何枚も重ね、圧力をかけることで、醤油を絞っていきます。

 搾った生醤油に熱を加えて、醤油が完成します。熱を加えるのは、微生物を失活させることや、色を調えて醤油独特の香りづけをするなどの目的があります。
 千葉県では、今現在キッコーマン食品や、ヤマサ醤油、ヒゲタ醤油などの大手の会社では、もろみを熟成させる工程では大きな杉の木桶ではなく、深さが10数メートルに及ぶ大型タンクが主流となっています。今回の食文化調査では、銚子にある3つの醤油醸造所の中で、唯一古くからの伝統ある杉の木の桶を使っている小倉醤油株式会社様に取材をさせていただきました。小倉醤油様では、大正年間から100年以上今の杉の木の桶を使われています。杉を使った桶では、塩分を含むと腐りにくくなる性質があり、また断熱性があるため、杉の木が使われるそうです。長年同じ杉の桶と、同じ蔵を使い続けることで、発酵過程でできた酵母菌が杉の桶や、蔵の屋根などに住み着き、その酵母菌を利用するために上が空いている桶を使っているようです。また、この住み着いている酵母菌が蔵ごとに全く一緒というわけではないため、蔵ごとに醤油の風味が変わってくるそうです。多くの醤油メーカーでは、もろみをタンクの中で6ヶ月間熟成させてるが、小倉醤油では、杉の桶で12ヶ月間熟成させています。6ヶ月と12ヶ月では、醤油の窒素含有量は変わってこないが、人の舌ではしっかりと感じることのできる確かな風味の違いが生まれてくるそうです。実際にお土産で小倉醤油様の商品である五郎左衛門を頂きましたが、確かに風味が市販のものとは全然違い、とても美味しかったです。皆様も一度、伝統ある蔵で作られた醤油を是非使ってみて頂きたいです。

(岡本 悠作)

<調査協力>

 小倉醤油株式会社
 千葉県銚子市八木町1015

 

 

 

 

2.2. なめろう                前へ 次へ 目次

 なめろうとは、アジやイワシ、トビウオなど新鮮な地魚をおろし、それを粗い切り身にした後にネギや生姜、味噌を上に乗せ、粘りが出るまで細かく刻み、包丁で叩いた料理のことです。お皿につくくらい粘りが出て、あまりの美味しさにお皿まで舐めてしまうことが名前の由来である、とも言われています。

 なめろうは、新鮮な魚を使って不安定な船上で塩分や栄養を摂るために、漁師料理として生まれました。味噌は疲労回復に効き、野菜やミョウガにはビタミンが含まれています。釣ったばかりの魚は旨味が無いので、船上で旨味を出すために塩分を加えて、叩いて細胞を壊して食べるようになったそうです。

 西から東へ移動する漁師によって広まり、初めは、味噌ではなく醤油などでも作られていたそうですが、小さい船が多かったので、狭い船内での持ち運びが楽な味噌が定着しました。その日によって、使う魚を変えたり、作る人によって味噌も異なるため、決まったレシピは特にないのが特徴です。お店によって、違う味を楽しめるそうなので、皆さんも是非、食べ比べをしてみてはいかがでしょう?

(徳富 可子)

<調査協力>

 寿司と地魚料理 大徳家
 千葉県南房総市千倉町南朝夷1079
 https://daitokuya.co.jp

 

 

 

 

2.3. おり漬                 前へ 次へ 目次

 おり漬とは、醤油の製造工程で絞った後に溜まる”おり”を利用して、近所で採れる野菜を漬けたことから誕生しました。おり自体の塩分濃度は高く、昔は野菜から出る水分以外には薄めずに漬けていました。おり漬には昔から、きゅうり、大根、生姜、瓜などが使われています。

 漬ける期間は野菜ごとに異なります。これは、野菜ごとに浸かりやすさが異なるからです。例えば、大根はすぐに漬かりますが、生姜など繊維質な野菜はなかなか浸かりにくいため、半年ほど漬けるそうです。同じ液に漬けても、生姜の食塩相当量(5.3 g/100 g)は他(5.6 g/100 g)と比べて低いことからも、繊維質の野菜は漬かりにくいことがわかります。


冷蔵室の中で野菜を漬けている様子です。

 一般的には、白飯と一緒に食べます。最近では、ピザの上に乗せるなどの工夫をしているところもあるそうです。実際に坂倉味噌醤油さんで、おり漬や鉄砲漬を試食させていただきましたが、温かい白飯がとても欲しくなりました。お土産に、甘酒もいただいたのですが、桶の香りが残っていて、タンクで作っているものとは全く違っていて、とてもおいしかったです。


↑取材時に頂いたおり漬けです。

<調査協力>

 坂倉味噌醤油株式会社
 千葉県野田市野田608

 

 

 

 

3. 最後に                          前へ     目次

 今回の食文化調査を通じて、千葉県の醤油や味噌、それを使って食べられてきた料理の歴史を知ることが出来ました。水運の発達に伴って、大消費地に近い利点から醤油なども発展したと聞き、交通と食文化に関係があることに驚きました。郷土料理では、漁師の方が船の上で美味しく栄養を摂るために生まれたと知り、おり漬は醤油を余すことなく利用することから始まったとのことで、先人の知恵を感じました。
 今回、醤油について、桶など工程などをお話してくださった、小倉醤油(株) 小倉保正様、小倉醤油をご紹介してくださった、千葉県醤油工業協同組合の方、なめろうについて、その歴史やさらに発展するためにされていることを説明してくださった、寿司と地魚料理 有限会社大徳家 栗原和之様、おり漬の昔と今、また様々な漬物や醤油、甘酒等をご紹介してくださった、坂倉味噌醤油(株) 坂倉暁子様、多大なご協力に感謝申し上げます。
(岡本 悠作、徳富 可子)

 

 参考資料

 ・千葉県庁HP:千葉県のすがた 気候
  (https://www.pref.chiba.lg.jp/kouhou/profile/sugata.html#a03
 ・千葉県庁HP:千葉県の紹介 千葉県PV 暮らしやすさ編
  (https://www.pref.chiba.lg.jp/kouhou/net-tv/prvideo/pr-2014-6-kurashi.html
 ・千葉県庁HP:千葉県の成り立ち編 3.藩から県へ
  (https://www.pref.chiba.lg.jp/kkbunka/kenminnohi/panel/panel3.html
 ・気象庁:過去の気象データ検索 千葉
  (https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/view/nml_sfc_ym.php?prec_no=45&block_no=47682&year=&month=&day=&view=
 ・千葉県農業協同組合中央会:千葉県農業の現状
  (http://www.ja-chiba.or.jp/00page/01top_menu/04chiba_aguriculture/chiba_aguriculture.html
 ・小笠原 長和・川村 優 (1971) 『千葉県の歴史』(県史シリーズ 12)山川出版社
 ・あんだこれ銚子:小倉醤油
  (http://www.city.choshi.chiba.jp/andacore/jp/category/see/ogurashoyu.html
 ・キッコーマン株式会社:しょうゆのつくり方
  (https://www.kikkoman.co.jp/soyworld/museum/howto/index.html
 ・職人醤油:しょうゆのつくり方
  (https://www.s-shoyu.com/knowledge/0501
 ・寿司と地魚料理 大徳家
  (https://daitokuya.co.jp/
 ・野田の地域情報サイト まいぷれ:坂倉味噌醤油株式会社
  (https://noda-chiba.mypl.net/article/furusato_noda/16812
 ・銚子市HP:銚子の歴史
  (https://www.city.choshi.chiba.jp/sisei/about_choshi/profile/rekishi.html

 

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